短編小説(2庫目)
やめてたすけてもうゆるして。
そう言い残してあいつは死んだ。
旧式の携帯電話にボイスメモが残っていたのだ。
あいつはもう使わなくなったそれをおもちゃにして、いろいろなことを吹き込んでいたらしい。
ボイスメモの向こうに誰かいるという設定でラジオをしていたようだ。
それを聴く限り、……いややめよう。あいつも知られたくないプライバシーがあるだろうし。
俺はというと、あいつが残したそのボイスメモを毎晩聴いている。
精神を病んだ人間がその状態で録音していた偽ラジオなんて聴くだけでこっちのメンタルも壊れそうだと思うだろ。
まあ……そうかもしれない。でも、あいつの偽ラジオは面白かった。
と言っても、あくまで内輪のノリで、他人が聴いても何も面白くないだろう。
あいつのことがそれなりに好きじゃないと面白くない。
俺?
うーん……嫌いなわけじゃなかったんだが。偽ラジオを聴いて好きになってきた。
とあるゲームがあった。
統制された社会 の中で、ラジオを軸に物語が展開していくゲーム。
俺はそのゲームを大変面白く遊んだのだが……こいつの偽ラジオがそれになるかというと、まあ、そうは思えない。
内向きなラジオだし、物語が展開するとしても、喪に服す方向だろう。
そう。
俺はあいつの喪に服さなきゃならないんだ。
ならないんだが……いかんせん、あいつは周囲や家族から忌み嫌われていて、誰もその喪に付き合っちゃくれないんだ。
墓に行ってもあいつの骨があるだけ。
雨が降っていた。
俺は、泣けなくて。
つまらない人生だった。あいつはそう言い残していた。
『つまらない人生だった、つまらない生活だった。何の役にも立てなくて、これを聴いてる君にも迷惑をかけてしまった』
……何の迷惑もかかってはいない。俺はただ、偽ラジオを毎晩聴いて楽しんでいただけだし。
『つまらない性格だった。誰からも必要とされない僕だった。嫌なことをたくさんしてしまった、皆に迷惑をかけてしまった。死んでお詫びをするしかないよ。……本当は死にたくなんかなかった、ああ思い出す。やめて、たすけて、もうゆるして。思い出したくなんかない、いやだ。……僕はどうしたらよかったんだろう。ねえ君、答えを持っているかい。それがわかったら、いつか僕に教えてほしい。この世からいなくなってしまった僕に。……こちら■■、■■■■でした』
それが最後の偽ラジオ。
あいつは死んでしまった。俺を残して。
……そう思える時点で、もう、喪なのだろう。
何の役にも立たない喪。俺の、ただ俺一人だけの、自己満足な喪。
墓の前で流れ続ける偽ラジオをイヤホンで聞きながら、俺は目を閉じた。
答えは無い。死を綺麗に捉える俺とあいつに不満があれば言うがいい。
たった一人の喪だった。
たった二人の喪、だった。
そう言い残してあいつは死んだ。
旧式の携帯電話にボイスメモが残っていたのだ。
あいつはもう使わなくなったそれをおもちゃにして、いろいろなことを吹き込んでいたらしい。
ボイスメモの向こうに誰かいるという設定でラジオをしていたようだ。
それを聴く限り、……いややめよう。あいつも知られたくないプライバシーがあるだろうし。
俺はというと、あいつが残したそのボイスメモを毎晩聴いている。
精神を病んだ人間がその状態で録音していた偽ラジオなんて聴くだけでこっちのメンタルも壊れそうだと思うだろ。
まあ……そうかもしれない。でも、あいつの偽ラジオは面白かった。
と言っても、あくまで内輪のノリで、他人が聴いても何も面白くないだろう。
あいつのことがそれなりに好きじゃないと面白くない。
俺?
うーん……嫌いなわけじゃなかったんだが。偽ラジオを聴いて好きになってきた。
とあるゲームがあった。
俺はそのゲームを大変面白く遊んだのだが……こいつの偽ラジオがそれになるかというと、まあ、そうは思えない。
内向きなラジオだし、物語が展開するとしても、喪に服す方向だろう。
そう。
俺はあいつの喪に服さなきゃならないんだ。
ならないんだが……いかんせん、あいつは周囲や家族から忌み嫌われていて、誰もその喪に付き合っちゃくれないんだ。
墓に行ってもあいつの骨があるだけ。
雨が降っていた。
俺は、泣けなくて。
つまらない人生だった。あいつはそう言い残していた。
『つまらない人生だった、つまらない生活だった。何の役にも立てなくて、これを聴いてる君にも迷惑をかけてしまった』
……何の迷惑もかかってはいない。俺はただ、偽ラジオを毎晩聴いて楽しんでいただけだし。
『つまらない性格だった。誰からも必要とされない僕だった。嫌なことをたくさんしてしまった、皆に迷惑をかけてしまった。死んでお詫びをするしかないよ。……本当は死にたくなんかなかった、ああ思い出す。やめて、たすけて、もうゆるして。思い出したくなんかない、いやだ。……僕はどうしたらよかったんだろう。ねえ君、答えを持っているかい。それがわかったら、いつか僕に教えてほしい。この世からいなくなってしまった僕に。……こちら■■、■■■■でした』
それが最後の偽ラジオ。
あいつは死んでしまった。俺を残して。
……そう思える時点で、もう、喪なのだろう。
何の役にも立たない喪。俺の、ただ俺一人だけの、自己満足な喪。
墓の前で流れ続ける偽ラジオをイヤホンで聞きながら、俺は目を閉じた。
答えは無い。死を綺麗に捉える俺とあいつに不満があれば言うがいい。
たった一人の喪だった。
たった二人の喪、だった。
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