短編小説(2庫目)
声が聞こえる。
「そろそろ蟹が要るんじゃない?」
声が聞こえる。
「瘦せ我慢で封じ込めるにも限界が来てるんじゃない?」
俺は目を細め、視界にうつる赤色を見なかったことにして、
「絶望してるだろ、君」
視界いっぱいに、
「……放っておいてくれ」
「どうして隠すの? 助けを求めれば誰か相手してくれるかもしれないのに。どうして隠すの? 自分が今絶望して暗い気分だってこと、隠して、無かったことにして、何が嬉しいの?」
「……迷惑かけたくない」
「僕には迷惑かけていいんだよ」
「依存したくない」
「……そう言われると、返す言葉がなくなるけど」
やれやれとハサミを振ると、視界いっぱいにうつっていた蟹が退いていく。
部屋の端。
「定位置に戻りまーす」
「帰れ」
「誰かいた方が嬉しいんじゃない?」
「……」
こんな言葉に絆されそうになっている俺が、俺は悲しい。
昔はこんなじゃなかった。
昔はもっと、楽しくて、仲間もいて、友達もいて、仕事も上手くいっていて、いなくなった人はまだいなくなっておらず、
………。
それでも。
「ね~暇なんだけど僕」
「黙ってろ」
鬱陶しいこいつを無碍にできるほど孤独に飢えてはいなかった。
「そろそろ蟹が要るんじゃない?」
声が聞こえる。
「瘦せ我慢で封じ込めるにも限界が来てるんじゃない?」
俺は目を細め、視界にうつる赤色を見なかったことにして、
「絶望してるだろ、君」
視界いっぱいに、
「……放っておいてくれ」
「どうして隠すの? 助けを求めれば誰か相手してくれるかもしれないのに。どうして隠すの? 自分が今絶望して暗い気分だってこと、隠して、無かったことにして、何が嬉しいの?」
「……迷惑かけたくない」
「僕には迷惑かけていいんだよ」
「依存したくない」
「……そう言われると、返す言葉がなくなるけど」
やれやれとハサミを振ると、視界いっぱいにうつっていた蟹が退いていく。
部屋の端。
「定位置に戻りまーす」
「帰れ」
「誰かいた方が嬉しいんじゃない?」
「……」
こんな言葉に絆されそうになっている俺が、俺は悲しい。
昔はこんなじゃなかった。
昔はもっと、楽しくて、仲間もいて、友達もいて、仕事も上手くいっていて、いなくなった人はまだいなくなっておらず、
………。
それでも。
「ね~暇なんだけど僕」
「黙ってろ」
鬱陶しいこいつを無碍にできるほど孤独に飢えてはいなかった。
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