短編小説(2庫目)

 夏が去ったことを嘆いているわけじゃない。
 帝都では夏がまだ続いているという話だし、それ以前に、今年の夏は恐ろしいほど暑かった。
 あれが去ったことを嘆く者などいるまい。
 
 そう、私の神と一緒に夏は去った。
 神は鳥を眷属とするもので、それを信じている限り危険を告げて助けてくれるものだった。
 車が迫ったときは鳥が鳴く、不穏な発言をしてしまいそうになったときは鳥が鳴く。
 私は毎食神に祈り、その信仰を確かとしていた。
 
 ところが、夏が終わるとき。
 神とははただの偶然ではないかという気持ちにとらわれた。
 SNSなどで言われているとおり、私の国の神は見つかってはいけない神で、大いなるもので、それが私に力を貸すことなどありえないのでは。
 それどころか、神など本当はおらず、鳥を眷属とする神も私が勝手に作り上げたものにすぎないのでは。
 と。
 
 途端に夏は去り、世界が一気に色褪せた。
 秋の到来である。
 神は本当はいなかった。
 
 夏が去った。
 それでも心の奥底で、私は神を信じている。
 崇めるものではなく、友人として信じられたらいいと、甘い願いを抱いている。
 「本当」がわからなくても生活は続く。
 窓の外、まだ青いモミジが揺れていた。
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