短編小説(2庫目)

 あやまちを繰り返すたび、それを忘れて遠くなる。
 近くにあるものには恐怖のせいで手が出せない。
 お礼すらも言えないとは笑える話だ。
 声をかけられても口も体も心も固まってしまって鬼になる。
 都合のいいことだ。
 好きな漫画の話もろくにできなくて、相手に合わせて、これでよかったのだろうか。
 いつもそう思う。
 
 あやまちを反芻しながら淹れたコーヒーを啜る。体に悪いのはわかっているが、やめられない。
 カフェインとは友達だ。永遠の友達だ。
 ██が愛飲していたので、私も自然と愛飲するようになった。
 私はカフェインに弱い。それを逆に利用して、昼間の眠気への対処に使うことにしている。
 
 あやまちはあやまちだ。取り返せないあやまち。そういったものが、私の人生には積みあがっている。
 誰にも言えないあやまちが。
 コーヒーが半分になる。
 コーヒーの妖精がいると信じていたことがあった。██がそう言ったのだ。コーヒーを半分飲むとそれは現れて、願いをなんでも叶えてくれるという。
 現れないときは確変じゃないのだと教えてくれた。
 また、コーヒーを啜る。
 焙煎した豆の香りがする。
 それだけだ。
 でも、美味しい。
 
 あやまちは取り返せることもなく、永遠に積みあがってゆく。
 まるで私とコーヒーの関係のように。
 そうして贖罪を繰り返して私は生きるのだろう。
 信者のように。
 
 おわり。
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