短編小説(2庫目)

「ほこらしい」
 と幼馴染が言い出したので、
「何が」
 と聞いてやる。
「あそこにあるのはほこららしい」
「そっか」
「我々異星人を奉ったほこららしいんだ」
「我々と言われても」
「君は人間だろう?」
「そうだね」
「私を奉らないのか」
 きな臭くなってきたぞ。
「異星人ってだけでそういうのはちょっと、星が違うだけで神とかではないし」
「そうか」
「そうだよ」
「では奉りたまえ」
「待って、話がおかしい」
 ごごご、という音がする。
「世界線が動いているのか?」
「知ってるならなんとかしてくれ」
「そう言われても我この前までただの幼馴染だった故何も力はなく」
「異星人じゃなかったのが異星人になってまたただの幼馴染に戻って、ってここの世界線はめちゃくちゃだ」
「どうにかしたいですよね」
「どうにかしたい、はっ……まさかあのほこらが?」
「いやほこらは関係ない」
「関係ないんかい」
「空だ」
「空?」
見上げると、幼馴染の言った通り、空が真っ赤に染まっていた。
「なんだ、夕焼けじゃないか」
「あ……夕焼けか」
「そうだよ。早く帰ろう」
「そうだね」
 ただの幼馴染に戻った幼馴染は自分が異星人だったことも忘れてしまって、俺だけがほこらのことを覚えている。
 ほこらしくも何ともない、それは秋の話。
7/157ページ
    スキ