短編小説(2庫目)

 旦那ァ知ってますかいそこの辻を曲がったところに天使が舞い降りたって話でさあ、天使って何? どうも舶来の物らしくて坊さんも扱いに困る始末、お抱え坊主が匙投げた、って噂になってまさあ、なに、俺が行くゥ? あんた付け焼き刃の読経で何ができるってハナシでさあよ、やめときなさい、あ旦那、旦那! ……行っちまった。
 とんとんとん、たのもー!
 たのもーってあんた落語じゃないんだから……何? 天使? いないようちにはそんなものいません、成仏? 馬鹿ですねえ旦那、天使は成仏させる側ですよ。……え、なんで私がいるかって? そりゃ旦那、旦那を成仏させるため、って旦那読経やめてくださいます? 調子が狂うじゃないですか。なに、成仏したくない? え、そんなわけのわからん存在に連れられて極楽浄土に行くのは嫌だ? 旦那、天使が連れてくのは天国ですよ、極楽浄土とは……なに、もうちょっと現世で遊びたい?
 ………あんたはなにがしたいんです?

 それでまさか私と遊びたいってんだから困ったもんだ、旦那、それも風光明媚なとこ巡り、羽があるから足代わり。旦那も罪なお人ですねって私の羽が落ちるようなことはやめてくださいよ、…あ、そう、そういう趣味はない? それを聞いて安心しました、え、友人として? 成仏できてない霊と天使が友人になるってのはなんだかおかしな話ですがこれもまァ、縁ということでひとつ。
 あ、めでたし、めでたし。

(おわり)
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