短編小説(2庫目)

 小説が書けなくなってはや幾年。私はXの奥地まで出かけていた。
 そこには私と同じく小説が書けなくなった者たちが集まっていた。
 はあ、と息を吐く。
 インターネットでしか交われない人たちがここにいるのだ。
 もうちょっと頑張ろう、いや休もう。休むのが一番だ。
 私はPCを閉じ、目を瞑った。

 その次の日。

 玄関に蟹が来ていた。
 玄関、という言葉と限界、という言葉は似ている。
 そんなことを考えながら蟹を迎える。
「ハロー、僕は蟹だよ」
 知ってる。
「Xの奥地に行くのはおやめなさい」
「なぜ」
「そこには闇しかない」
「行くも行かないも僕の勝手じゃないか」
「それでも、おやめなさい」
「そこでしか救われない人もいるんだよ」
「蟹の助けはいらないと? こんなに絶望しているのに」
「………」
「僕の手を取るだけで君は救われるのに?」
 そこに。
「はいはいはい、君はざりがにですね、取り締まりますピピピピ~」
「な、何をするんだッ蟹か、蟹の手のものか」
「はいはいざりがにがご迷惑をおかけしました、すみませんね、連行しますのでピピピピピ~」
 蟹、いやざりがにとなった元蟹と、本物の蟹らしき蟹が去ってゆく。
「なんだったんだ……」
 それで一作品書けそうな気がして、書いたのがこの小説というわけだ。
9/157ページ
    スキ