短編小説(2庫目)

 みんなと一緒。
 その言葉が嫌いだった時期があった。
 食事もみんなと一緒、寝るのもみんなと一緒、映画を見るのもみんなと一緒、遊ぶのもみんなと一緒。
 どうやっても『みんな』と馴染めない。
 一人にしてくれ。そう思う。
 今思えばそれは、私がどうしようもない欠陥品であることの証明だったのだろう。
 ルーレットを回して、倍率をかけて、最悪の目が出て返ってきた。
 それが私。

「で、君は結局何が言いたいわけ」
「そんな欠陥品である私だから、蟹に選ばれてよかったってことだよ」
「蟹に選ばれるに相応しい的な?」
「違うよ。欠陥品で、あのままじゃ死んでた。だから、選ばれてよかったって」
「……実は一回死んでるって言われたら驚く?」
「えっ」
「冗談だよぉ! まあ、蟹に選ばれた以上、他のヒトからは死んでるのと一緒だから変わらないんだけど」
 蟹はにこやかにハサミをちょきちょきさせる。
「要らない縁は切っちゃわないとだし」
 ちょきちょき。
「要らないヒトの世も切っちゃわないとだし、要らないニュースも流れないようにしちゃわないとだし、まあ生きてるのは実質別次元でトレースされてるだけだから、選ばれた人間は」
 ちょきちょき。
「待って、一気に言われてもわかんないよ」
「わからなくてもいいよ~人生長いんだから、そのうちわかるよ」
 しゃきん、とハサミを振り抜くと、蟹はこちらを見た。
「一生わからなくてもいいんだからね」
「そっか……」
 その言葉は嫌というほど甘く、私の「一生このままでいいか」という気持ちを加速させるものだった。

 『みんなと一緒』でなくてもいいか、の話。
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