短編小説(2庫目)

「夏が夏じゃないよ」
「何言ってるんだお前」
「だから~、夏なのに夏じゃないみたいな感じするってこと。いつもなら梅雨だぞ~!? おかしいよ」
「蟹も普通の感性持ってるんだな」
「え!」
 蟹がびっくりしたかのように目をぱちぱちさせる。いやぱちぱちしてるよ怖っ。
「普通の感性に合わせてあげてるんだけど」
「ああ、蟹ならそう言うと思った」
「そうでしょそうでしょ~。えへへへへ」
「褒めてないんだが」
「褒めてないの!? 普通の感性嫌!?」
「テレビみたいで嫌」
「じゃあ戻すか~。雨が無いと川が枯れるからいやだよね! 僕たち蟹としては困ってしまうよ」
「俺は別に……」
「じゃあ合わせるか~。雨があってもなくても僕たちは万年部屋の中だし、ぶっちゃけ関係無いよね」
「いや……作物作る人とかが困るだろ。ひいては俺たちの食い物の値上げに繋がるんだから」
 蟹ははにこ! と笑う。
「よくできました」
「えっ」
「そういう満点回答をきみは求められてきたんだね。……僕といるときぐらい正直に生きていいんだよ」
 優しい声。
「ダメだろ。何でも正直に言ってたら駄目な奴になってしまう」
「真面目だねえ」
「真面目だよ。だから生きにくい」
「古語~ネットで馬鹿にされるやつ」
「やめろちくちく言葉~」
「ちくちく!」
「ぐわー!」
「ふふ」
「何だこのやり取り」
「蟹と同居人のやり取りで~す」
「……ふふ」
「ふふふ!」
 そうやって、今日も更けてゆく。
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