蛇を積む
「ここが人間用の服の店ですか」
「そうそう、人間用服飾店さ。さあ、入ろうじゃないか」
シュレーディングが尻尾をぴこぴこと揺らす。
俺はシュレーディングに付いて店に入った。
「いらっしゃいませ」
接客していたのは人型ロボットだった。
寮や社員食堂にいるものと酷似している。
同じ型なのだろうか?
「こんにちは蛇様。いらしてくださり光栄です」
ロボットが頭を下げる。
「どうもどうも、ロボット君」
シュレーディングが尻尾を上げる。
ロボットが俺の方に頭を向け、またシュレーディングを見る。
「その人間に合う服をお探しですか?」
「そうなのだよ。いい感じに見繕ってはくれないか」
「わかりました」
頷いてみせるロボット。
「好きなお色等、ございましたらお伝えください」
「人間くん、好きな色はあるかね?」
「俺は……黒が好きです」
「なるほど黒か、いい色だ」
「黒ですね。承知いたしました」
ロボットは奥に消える。
「服、ロボットが選んでくれるんですね」
「そうなのだよ」
「便利ですね」
「それを便利と呼ぶなら、そうなのだろうね」
「自分で選ばなくてもいい、って良いじゃないですか」
「己で選択できること、というのを『自由』と呼んで尊重する価値観もあるのだよ」
「そんなものですかねえ」
「少なくとも、蛇社会ではそれが正しいこととされている。……以前あった人間社会の価値観と同じようにね」
「……そうなんですね」
「しかし、君にも同じ価値観を持てとは言わないよ。何せ思想の自由がある」
「……シュレーディングさんは優しいですね」
「権利を尊重しているだけさ」
「……」
そう言われると、何も返せなくなる。
権利の尊重。それが「正しいことである」というのは俺にもわかった。
しかし、果たしてシュレーディングは「正しい」のみで俺に接しているのだろうか。
俺に接するシュレーディングの態度が「正しい」のみでなければ████と思うことは、「正しい」ことではないのだろうか。
そんなことを考えてしまう俺はもうだいぶシュレーディングのことを██なのかもしれなかった。
「お待たせいたしました」
ロボットが奥から出てきて頭を下げる。
「二着ご用意しております」
「うむ」
シュレーディングが頷く。
「こちらがスーツで、こちらがカジュアルでございます」
「人間くん。君はどちらが良いかね?」
「どっちでも良いですが……カジュアルの方が動きやすそうではありますね」
「では、カジュアルの方を買おう。ロボットくん、試着室で人間くんの着替えを手伝ってあげてくれたまえ」
「わかりました」
「一人でも着替えられますよ」
「それなら、一人で着替えるかね」
「ええ」
「では、ロボットくんは人間くんを手伝わずにここで待ちたまえ」
わかりました、とロボット。
俺はロボットから服を受け取り、試着室と書かれた部屋に入った。
小説なんかではこの試着室で服を着替えることになっているのだ。そのくらいは知っている。
……それで、この壁にある突起に服をかけたりするのだろうか?
まあよくわからないが、適当にすればなんとかなるだろう。
俺は適当に服を着替えてみた。
鏡で見て、変ではないので大丈夫だろう。
脱いだ服を持って、試着室を出る。
「おお」
シュレーディングが俺を見て反応を返す。
「どうですかね……」
「似合っているじゃないか! 良いねえ良いねえ」
うんうんと頷くシュレーディング。
「ああ、古い服は私が寮に転送しておこう」
「いいんですか?」
「遠慮は無用だよ。貸したまえ」
「……」
言われて手渡すと、シュレーディングはポータルを開き、その中に服を入れた。
「よし、これで完了だ」
「ありがとうございます」
「さて、服の用事が終わったね。お出かけはまだ始まったばかりだ、色々見て回ろうじゃないか」
ウィンクするシュレーディングに、俺ははいと頷いた。
「そうそう、人間用服飾店さ。さあ、入ろうじゃないか」
シュレーディングが尻尾をぴこぴこと揺らす。
俺はシュレーディングに付いて店に入った。
「いらっしゃいませ」
接客していたのは人型ロボットだった。
寮や社員食堂にいるものと酷似している。
同じ型なのだろうか?
「こんにちは蛇様。いらしてくださり光栄です」
ロボットが頭を下げる。
「どうもどうも、ロボット君」
シュレーディングが尻尾を上げる。
ロボットが俺の方に頭を向け、またシュレーディングを見る。
「その人間に合う服をお探しですか?」
「そうなのだよ。いい感じに見繕ってはくれないか」
「わかりました」
頷いてみせるロボット。
「好きなお色等、ございましたらお伝えください」
「人間くん、好きな色はあるかね?」
「俺は……黒が好きです」
「なるほど黒か、いい色だ」
「黒ですね。承知いたしました」
ロボットは奥に消える。
「服、ロボットが選んでくれるんですね」
「そうなのだよ」
「便利ですね」
「それを便利と呼ぶなら、そうなのだろうね」
「自分で選ばなくてもいい、って良いじゃないですか」
「己で選択できること、というのを『自由』と呼んで尊重する価値観もあるのだよ」
「そんなものですかねえ」
「少なくとも、蛇社会ではそれが正しいこととされている。……以前あった人間社会の価値観と同じようにね」
「……そうなんですね」
「しかし、君にも同じ価値観を持てとは言わないよ。何せ思想の自由がある」
「……シュレーディングさんは優しいですね」
「権利を尊重しているだけさ」
「……」
そう言われると、何も返せなくなる。
権利の尊重。それが「正しいことである」というのは俺にもわかった。
しかし、果たしてシュレーディングは「正しい」のみで俺に接しているのだろうか。
俺に接するシュレーディングの態度が「正しい」のみでなければ████と思うことは、「正しい」ことではないのだろうか。
そんなことを考えてしまう俺はもうだいぶシュレーディングのことを██なのかもしれなかった。
「お待たせいたしました」
ロボットが奥から出てきて頭を下げる。
「二着ご用意しております」
「うむ」
シュレーディングが頷く。
「こちらがスーツで、こちらがカジュアルでございます」
「人間くん。君はどちらが良いかね?」
「どっちでも良いですが……カジュアルの方が動きやすそうではありますね」
「では、カジュアルの方を買おう。ロボットくん、試着室で人間くんの着替えを手伝ってあげてくれたまえ」
「わかりました」
「一人でも着替えられますよ」
「それなら、一人で着替えるかね」
「ええ」
「では、ロボットくんは人間くんを手伝わずにここで待ちたまえ」
わかりました、とロボット。
俺はロボットから服を受け取り、試着室と書かれた部屋に入った。
小説なんかではこの試着室で服を着替えることになっているのだ。そのくらいは知っている。
……それで、この壁にある突起に服をかけたりするのだろうか?
まあよくわからないが、適当にすればなんとかなるだろう。
俺は適当に服を着替えてみた。
鏡で見て、変ではないので大丈夫だろう。
脱いだ服を持って、試着室を出る。
「おお」
シュレーディングが俺を見て反応を返す。
「どうですかね……」
「似合っているじゃないか! 良いねえ良いねえ」
うんうんと頷くシュレーディング。
「ああ、古い服は私が寮に転送しておこう」
「いいんですか?」
「遠慮は無用だよ。貸したまえ」
「……」
言われて手渡すと、シュレーディングはポータルを開き、その中に服を入れた。
「よし、これで完了だ」
「ありがとうございます」
「さて、服の用事が終わったね。お出かけはまだ始まったばかりだ、色々見て回ろうじゃないか」
ウィンクするシュレーディングに、俺ははいと頷いた。
19/19ページ