短編小説(2庫目)

 ずっとFのことが気になっていて、それで俺はFに電話をかけた。
 電話ってのも古い連絡手段で、今時はメッセージアプリでやりとりするのさ。
 とFは言っていた。
 Fは同期で、出席数が足りず二年留年して俺と同じ学年になっている。
 精神的な問題があって、休学していたと聞いた。
 そんなFはやっぱりいつも不安定で、しかし表に出る態度は無理して明るく努めているようだった。
 友人なのだから頼ってほしいと俺は思うが、Fは他人に迷惑をかけるのが申し訳ないようで、なかなか頼ってはくれない。
 だから俺は電話をかけることにした。
 
 俺も昔は精神的な問題があって、Fのことは勝手にわかっているつもりでいた。
 しかしたぶん、それがいけなかったのだと思う。

「世界中が俺を見てる気がして、つらいんだ」
「そうか、つらいんだなあ」
「つらいんだなあって他人事みたいに言うじゃないか。俺は君のそういうところが……」
「すまん……」
「あ……いや、俺こそごめん……俺はなんてことを」
「いいよ、大丈夫だよ。俺は……」
「いや、申し訳ない……今日はもう遅いから寝てくれ」
「だが……」
「ほんと申し訳ない……」

 そう言って、Fは電話を切ってしまった。
 俺の方こそFに対して申し訳なくて、電話に向かって頭を下げたい気持ちだった。
 他人事のようにコメントしてしまったのはひょっとすると、俺がそのことから距離を取りたいからかもしれなかった。
 再び「そう」なるのが怖いのだ。
 触れさえしなければ、離れていられる。
 離れていられれば、忘れられる。
 そうすればもう、戻ることはないんじゃないか、なんて。
 おそらく、人間としては当然の感情……なんだろう。でも、今のFに対してそれは、してはいけないことであったのだろうと思う。
 
 Fは翌日、大学に来なかった。
 俺は昼休みにFの家に行って、Fを引っ張り出した。
 俺がFの友人に相応しくなくても、それはそれとしてやっぱり俺はFのことを避けきれなくて、関わり続けるのだと思う。
 
 それが救いかどうかは俺にはわからないし、ひょっとすると俺は俺を救おうとしているのかもしれない。
 わからない。
 でも、俺は明日もFのことを気にするのだろう。
 そんな話。
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