短編小説(2庫目)

 今年も8月が来て、8月と一緒に色々なことをした。
 と言っても俺は人間で、外は危険な暑さと病に溢れていたので楽しんだのは主に室内でできることばかりだったけど。
 
「8月ぅ……」
 案の定、8月が行ってしまうのが寂しすぎて俺は寝込んでしまった。
「そうだ。今年も俺は行かなければならない」
「ずっと傍にいてくれないのか……」
「俺が8月である限り、それは無理だろうな」
「お前が8月じゃなくなることなんてあるのか……?」
「任務から解放されたら8月じゃなくなるさ。新しい8月が来るとかな」
「8月……俺、8月とずっと一緒にいたいのに」
「世間では夏休みが終わるのも早くなっただろう? 俺たちは残ったモラトリアムを一緒に楽しんだ」
「だから何なんだよお……」
「楽しかったか?」
「楽しかったよ……だから行ってほしくないのに」
「そう言われても、俺は8月だからな」
 8月は困ったように笑う。
「8月ぅ……」
「大丈夫だ、今年も9月の奴が来る。去年は秋の味覚を口に押し込まれたんだろう? 9月から聞いた。今年もきっと楽しい秋になる」
「ずっと夏でいいのに……」
「それは無理な話だな。この地域には四季がある。それが回り続ける限り、永遠に夏というのは難しい。それに」
「それに?」
「ずっと夏だと今まで取れていた作物が取れなくなるからな」
「あー、そっか……」
「大丈夫だ、俺がいなくなるまでは俺が傍にいる」
「8月……」
「安心して寝てろ」
「……ありがとう」
 目を閉じる。
 今年もまた、8月が行く。
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