浅瀬で溺れている
「■■さん」
「何だ」
「これ、どうぞ」
ハシウエから渡されたのは、液体の入ったプラスチック瓶。
「何だ、これは」
「ラムネです。俺、ラムネ好きなんですよ~」
「貴様の好みはどうでもいいとして、ラムネってガラス瓶じゃないのか」
「確かにガラス瓶のイメージがありますよね~。でも俺最近売ってるのはプラスチック瓶しか見たことないです」
「そうか」
ぷしゅ、という音を立ててハシウエが瓶を開ける。
「■■さんも飲みましょうよ」
「……俺はいい」
「ええ~俺の心なのに」
「貴様の心などいらん。持って帰れ」
「だってこれプレゼントですよ、プレゼント」
「俺は誰からのプレゼントも受け取らないことにしているんだ」
「……もしかして、警戒してます?」
「警戒というか、貴様から物をもらうのが嫌なだけだ」
「なんでですか~」
「借りを作りたくない。これを口実にして何やら言い出されると嫌なんでな」
「さすがにラムネプレゼントしただけで何かを要求したりしませんよ俺は」
「……」
俺はハシウエを睨む。
「俺の好きなものを一緒に飲んでほしかっただけです。なんでも好きな人と食べるとおいしくなるって言うじゃないですか」
「はあ、全くわからん。近頃の若い奴の考えることは謎だな」
「若者に限りません。きっと■■さんぐらいの歳の人でも同じことを思う人はいるし、なんなら全世代共通ですよ」
「大きく出たな」
「この世の真理ですから」
胸を張るハシウエ。俺は首を横に振る。
「好きだの恋だの、貴様の言うことは俺にはわからん」
「■■さんに青春はなかったんですか」
「あるわけなかろう。俺はインドア派だ」
「インドア派?」
「外に出るのを嫌う奴のことだ」
「一応聞きますが、学校には行ってたんですよね?」
「一応な」
「そこで青春の何かはなかったんですか?」
「言っておくがな。俺のような奴に青春はない」
言いながらラムネをハシウエの手に押し付ける。
「俺のような奴が送る青春なんてものは、体育会系の奴にイライラしながら一人で本読むくらいしかないんだよ」
「意外と文系だったんですね」
瓶を受け取り、ハシウエが言う。
「いいだろ文系でも。じゃあ貴様は何系なんだ」
「俺は両刀です」
「どちらもできる、と。いるよなそういう奴。とことん好奇心が強くて突っ走っていくタイプが多そうだが」
「■■さんが俺のことをわかってくれているみたいでめっちゃ嬉しいです」
「ハ。くだらん」
「えへへ……」
にまにましながら二本目のラムネを開けるハシウエ。ぽん、という音がした。
「いいですよね、青春は……ラムネのようです」
「何がどうラムネのようなんだ」
「しゅわしゅわ切ないところとか……青春はラムネ味ってよく言うじゃないですか」
「貴様のそのよくわからん『よく言う』はどこから来ているんだ」
「俺に興味を持ってくれるんですか? 嬉しいですね」
「貴様に興味はない。雑談の一環として聞いているだけだ」
「俺、本を読むのが好きなんです。本を読むと別の世界に行けるような気がして」
「………」
俺は黙る。
なぜなら俺も、昔は同じように考えていたからだ。
何となく、腹立たしさが込み上げるが、それを抑えて平静を装った。
「……それで、貴様は本を多く読んでいたと」
「そうです。今も本は好きですよ。■■さんはないんですか、オススメの本とか」
「俺におすすめを聞くぐらいならその時間でレビューサイトでも見て読め」
「ああん冷たい……でもそんなところも好きです」
「はあ……」
俺にため息を吐かせた張本人は、ラムネを嬉しそうに飲んでいた。
「何だ」
「これ、どうぞ」
ハシウエから渡されたのは、液体の入ったプラスチック瓶。
「何だ、これは」
「ラムネです。俺、ラムネ好きなんですよ~」
「貴様の好みはどうでもいいとして、ラムネってガラス瓶じゃないのか」
「確かにガラス瓶のイメージがありますよね~。でも俺最近売ってるのはプラスチック瓶しか見たことないです」
「そうか」
ぷしゅ、という音を立ててハシウエが瓶を開ける。
「■■さんも飲みましょうよ」
「……俺はいい」
「ええ~俺の心なのに」
「貴様の心などいらん。持って帰れ」
「だってこれプレゼントですよ、プレゼント」
「俺は誰からのプレゼントも受け取らないことにしているんだ」
「……もしかして、警戒してます?」
「警戒というか、貴様から物をもらうのが嫌なだけだ」
「なんでですか~」
「借りを作りたくない。これを口実にして何やら言い出されると嫌なんでな」
「さすがにラムネプレゼントしただけで何かを要求したりしませんよ俺は」
「……」
俺はハシウエを睨む。
「俺の好きなものを一緒に飲んでほしかっただけです。なんでも好きな人と食べるとおいしくなるって言うじゃないですか」
「はあ、全くわからん。近頃の若い奴の考えることは謎だな」
「若者に限りません。きっと■■さんぐらいの歳の人でも同じことを思う人はいるし、なんなら全世代共通ですよ」
「大きく出たな」
「この世の真理ですから」
胸を張るハシウエ。俺は首を横に振る。
「好きだの恋だの、貴様の言うことは俺にはわからん」
「■■さんに青春はなかったんですか」
「あるわけなかろう。俺はインドア派だ」
「インドア派?」
「外に出るのを嫌う奴のことだ」
「一応聞きますが、学校には行ってたんですよね?」
「一応な」
「そこで青春の何かはなかったんですか?」
「言っておくがな。俺のような奴に青春はない」
言いながらラムネをハシウエの手に押し付ける。
「俺のような奴が送る青春なんてものは、体育会系の奴にイライラしながら一人で本読むくらいしかないんだよ」
「意外と文系だったんですね」
瓶を受け取り、ハシウエが言う。
「いいだろ文系でも。じゃあ貴様は何系なんだ」
「俺は両刀です」
「どちらもできる、と。いるよなそういう奴。とことん好奇心が強くて突っ走っていくタイプが多そうだが」
「■■さんが俺のことをわかってくれているみたいでめっちゃ嬉しいです」
「ハ。くだらん」
「えへへ……」
にまにましながら二本目のラムネを開けるハシウエ。ぽん、という音がした。
「いいですよね、青春は……ラムネのようです」
「何がどうラムネのようなんだ」
「しゅわしゅわ切ないところとか……青春はラムネ味ってよく言うじゃないですか」
「貴様のそのよくわからん『よく言う』はどこから来ているんだ」
「俺に興味を持ってくれるんですか? 嬉しいですね」
「貴様に興味はない。雑談の一環として聞いているだけだ」
「俺、本を読むのが好きなんです。本を読むと別の世界に行けるような気がして」
「………」
俺は黙る。
なぜなら俺も、昔は同じように考えていたからだ。
何となく、腹立たしさが込み上げるが、それを抑えて平静を装った。
「……それで、貴様は本を多く読んでいたと」
「そうです。今も本は好きですよ。■■さんはないんですか、オススメの本とか」
「俺におすすめを聞くぐらいならその時間でレビューサイトでも見て読め」
「ああん冷たい……でもそんなところも好きです」
「はあ……」
俺にため息を吐かせた張本人は、ラムネを嬉しそうに飲んでいた。