文披(ふみひらき)31題
「■■さん」
「何だ」
「これ見てくださいよ」
「……何だ? 紐か?」
「ミサンガですよぉ……これつけて、紐が切れると願いが叶うっていう」
「……」
俺はハシウエから目を逸らし、欄干に手をかけた。
「で、貴様はそれをどうしたくて俺に見せたんだ」
「お揃いにしたくて」
にこっと笑うハシウエ。
「いらん」
「え~……ちょっとぐらいいいじゃないですか」
「前にも言っただろう、貴様から物をもらうのは嫌だと」
「あげるわけじゃないです。お揃いにしたいから、ただ受け取ってもらいたいだけなんです」
「なぜ俺が貴様とお揃いの紐をつけなければならない?」
「俺がそうしたいからです」
「エゴまみれだな、貴様は」
「そうですよ。俺は自分勝手な奴です」
「わかっているなら引っ込めたらどうだ」
「■■さあん……」
ハシウエが口をへの字にする。
「泣き落としなら効かんぞ」
「ああん冷たい……」
「でもそういうところも好きなんだろう?」
「俺に好かれている自覚があるの、好きです……」
「……」
舌打ちをする。
なんでもかんでも「好き」に持って行きたいのか、こいつは。
「つくづく脳内お花畑だな」
「■■さんもなりませんか? 脳内お花畑」
「誰がなるか」
「前にも言いましたが、脳内お花畑だと幸せですよ」
「どう幸せなんだ」
「何でも前向きに捉えることができます」
脳内お花畑の自覚を持ってそれをしているということは、天然ではなく敢えてやっているのだろうか。
想像すると少し寒気がした。
「水分取ってます?」
「ああ」
俺は着ていたローブから水筒を出す。
「ど、どこに入ってたんですか水筒……」
「この服は内側にポケットが多いんだ」
水筒の蓋を開けながら、俺。
「夏なのになんでそんなにもこもこなのかな~と思ってたんですよ」
「扇風機があるからな」
水筒を傾け、スポーツドリンクを飲む。
「えっ、だからもこもこなんですか」
「大量のポケットと扇風機でこのスタイルが出来上がっている」
蓋を閉め、水筒をまた懐にしまう。
「すごいですね。触ってもいいですか?」
ハシウエが手を伸ばそうとするのを、避ける。
「やめろ。ハラスメントだ」
「あっすみません」
素直に謝るハシウエ。
「俺は他人に触られるのが嫌いなんだ」
「慣れない野生動物みたいでかわいいですね」
「はあ?」
「す、すみません……」
小さくなるハシウエ。
「はあ……帰る」
「えっ。もう帰っちゃうんですか」
「もうだと? 長々話してやっただろうが」
「ミサンガつけてくれますか?」
「つけない」
「じゃあせめて受け取るだけでも……」
「……」
紐を差し出してくるハシウエ。
ため息を吐く。
「面倒な奴だ」
だんだん面倒臭くなってきたので、紐を受け取ってやる。
「えへへ。ありがとうございます」
ハシウエはへらりと笑い、
「明日、夏祭りがあるんですよ」
と続けた。
「それがどうした」
「俺と一緒に行ってください」
「はあ……?」
「一生のお願いです」
ハシウエが頭の前で両手を合わせる。
「なぜ俺が貴様なんぞと祭りに?」
「好きな人とお祭りに行くのってめっちゃいいじゃないですか」
「それは貴様の勝手だろう。俺が付き合う義理はない」
「花火大会には付き合ってくれたじゃないですか」
「あれは橋の上だったからだ」
「お祭りも絶対楽しいですよ。俺、■■さんを楽しませる自信があります」
「俺はイベントで楽しくなりたいとは思わん」
「またまたあ~。いいじゃないですか、ね」
「しつこいぞ」
「一緒に行ってくれたらこれ以上しつこくしませんから」
「その条件は俺に何の得もない。マイナスがゼロになるだけだ」
「うう……」
俯くハシウエ。
「……だが俺は優しいからな、橋には来てやる。祭りに行くかどうかは貴様の態度次第だ」
「えっ」
「寛容だろう?」
「ありがとうございます、■■さん……俺、頑張ります」
「頑張る必要はない。面倒になるだけだ」
「頑張ります」
ハシウエがここで叫ばなかったことは褒めてやってもよかったが、脳内お花畑がまた好きだの何だの言ってくるのが嫌だったので、頷くだけに留めた。
「何だ」
「これ見てくださいよ」
「……何だ? 紐か?」
「ミサンガですよぉ……これつけて、紐が切れると願いが叶うっていう」
「……」
俺はハシウエから目を逸らし、欄干に手をかけた。
「で、貴様はそれをどうしたくて俺に見せたんだ」
「お揃いにしたくて」
にこっと笑うハシウエ。
「いらん」
「え~……ちょっとぐらいいいじゃないですか」
「前にも言っただろう、貴様から物をもらうのは嫌だと」
「あげるわけじゃないです。お揃いにしたいから、ただ受け取ってもらいたいだけなんです」
「なぜ俺が貴様とお揃いの紐をつけなければならない?」
「俺がそうしたいからです」
「エゴまみれだな、貴様は」
「そうですよ。俺は自分勝手な奴です」
「わかっているなら引っ込めたらどうだ」
「■■さあん……」
ハシウエが口をへの字にする。
「泣き落としなら効かんぞ」
「ああん冷たい……」
「でもそういうところも好きなんだろう?」
「俺に好かれている自覚があるの、好きです……」
「……」
舌打ちをする。
なんでもかんでも「好き」に持って行きたいのか、こいつは。
「つくづく脳内お花畑だな」
「■■さんもなりませんか? 脳内お花畑」
「誰がなるか」
「前にも言いましたが、脳内お花畑だと幸せですよ」
「どう幸せなんだ」
「何でも前向きに捉えることができます」
脳内お花畑の自覚を持ってそれをしているということは、天然ではなく敢えてやっているのだろうか。
想像すると少し寒気がした。
「水分取ってます?」
「ああ」
俺は着ていたローブから水筒を出す。
「ど、どこに入ってたんですか水筒……」
「この服は内側にポケットが多いんだ」
水筒の蓋を開けながら、俺。
「夏なのになんでそんなにもこもこなのかな~と思ってたんですよ」
「扇風機があるからな」
水筒を傾け、スポーツドリンクを飲む。
「えっ、だからもこもこなんですか」
「大量のポケットと扇風機でこのスタイルが出来上がっている」
蓋を閉め、水筒をまた懐にしまう。
「すごいですね。触ってもいいですか?」
ハシウエが手を伸ばそうとするのを、避ける。
「やめろ。ハラスメントだ」
「あっすみません」
素直に謝るハシウエ。
「俺は他人に触られるのが嫌いなんだ」
「慣れない野生動物みたいでかわいいですね」
「はあ?」
「す、すみません……」
小さくなるハシウエ。
「はあ……帰る」
「えっ。もう帰っちゃうんですか」
「もうだと? 長々話してやっただろうが」
「ミサンガつけてくれますか?」
「つけない」
「じゃあせめて受け取るだけでも……」
「……」
紐を差し出してくるハシウエ。
ため息を吐く。
「面倒な奴だ」
だんだん面倒臭くなってきたので、紐を受け取ってやる。
「えへへ。ありがとうございます」
ハシウエはへらりと笑い、
「明日、夏祭りがあるんですよ」
と続けた。
「それがどうした」
「俺と一緒に行ってください」
「はあ……?」
「一生のお願いです」
ハシウエが頭の前で両手を合わせる。
「なぜ俺が貴様なんぞと祭りに?」
「好きな人とお祭りに行くのってめっちゃいいじゃないですか」
「それは貴様の勝手だろう。俺が付き合う義理はない」
「花火大会には付き合ってくれたじゃないですか」
「あれは橋の上だったからだ」
「お祭りも絶対楽しいですよ。俺、■■さんを楽しませる自信があります」
「俺はイベントで楽しくなりたいとは思わん」
「またまたあ~。いいじゃないですか、ね」
「しつこいぞ」
「一緒に行ってくれたらこれ以上しつこくしませんから」
「その条件は俺に何の得もない。マイナスがゼロになるだけだ」
「うう……」
俯くハシウエ。
「……だが俺は優しいからな、橋には来てやる。祭りに行くかどうかは貴様の態度次第だ」
「えっ」
「寛容だろう?」
「ありがとうございます、■■さん……俺、頑張ります」
「頑張る必要はない。面倒になるだけだ」
「頑張ります」
ハシウエがここで叫ばなかったことは褒めてやってもよかったが、脳内お花畑がまた好きだの何だの言ってくるのが嫌だったので、頷くだけに留めた。