文披(ふみひらき)31題
「夜が……短すぎる……」
「夏の夜だから仕方ないんじゃない?」
「蟹よ……俺としては一日中夜でもいいぐらいだ」
「なぜ?」
「俺の活動時間は夜だからだよ!」
ばさり、とマントを広げてみせる。
「室内でぐらいマント脱げば?」
「これが俺のアイデンティティーなんだよ! 吸血鬼といえば表が黒、裏が赤のマントだろ!」
長年孤独に生きてきた。でももうそろそろ生きるのが嫌になって、通販で銀色の杭を買ったところにやってきたのがこの蟹だ。
「吸血鬼らしさに拘りすぎるのが君の危ういところだね」
「危うい? 俺は吸血鬼なんだから、吸血鬼らしくするのは当然だろ」
「だったら喋りも高貴にしたら?」
「そんなことしたら周囲にバレる」
「いや常にマント着用してる方が怪しいよね」
「マントはアイデンティティーだって言ってるだろ」
「バレたいのかバレたくないのかどっちなの?」
「高貴な存在として敬意を払ってはほしいが退治されたくはない」
「わ~なんて都合の良い思考」
「蟹は俺を元気付けたいのかdisりたいのかどっちなんだ!?」
「どっちだろうねえ?」
「ニヤニヤするな! いや蟹だからニヤニヤしてるかどうかはわからないが、お前今絶対ニヤニヤしてるだろ!」
「ニヤニヤ」
蟹はハサミを左右に振る。
「く~! いやどっちにしても夜は長い方がいいんだ!」
「僕もだよ」
「え」
「君が安心して動ける時間は長い方がいいもんね」
「はあ~……蟹ぃ……」
「何」
「あんまり長すぎると寝る時間がなくなる」
「何……ちょうどいいぐらいの長さがいいってこと?」
「そう……。夏の夜は短すぎるので……」
「じゃあどれくらいの長さならいいわけ」
「秋かな……」
「秋ねえ……」
「秋の夜長って言うだろ?」
「言うけど……」
「秋は死の季節。死といえば吸血鬼!」
「一回死んでるんだっけ?」
「そう……そして蘇った」
「ヒューかっこいい~」
「ほんとにそう思ってるのか?」
「思ってるよ」
蟹が頷く。
「怪しい……」
俺は蟹をじっと見つめる。
「蟹は人間じゃないから読心はきかないよ~」
「くっ……」
「無駄なことはやめてトマトジュースでも飲んだら? 君が寝てる間にいい感じのやつお取り寄せしといたよ」
蟹が何もない空間から段ボールの箱を取り出す。
「えっそれって高いやつ……」
「そう! KAKOMANAIのトマトジュース! いらない?」
「……いる」
俺は蟹に向かって両手を差し出す。
「どうぞ~!」
蟹は段ボールを器用に開け、ジュースを一缶差し出した。
「蟹は飲まないのか?」
俺が受け取るのを確認してから、蟹は段ボールからもう一缶取り出し、残りを部屋の隅に置く。
「もちろん、飲むよ。僕も吸血蟹だからね」
「夜のデザートだな!」
「楽しいね!」
蟹が缶を開ける。
俺も缶を開ける。
「乾杯」
「かんぱーい! 夜が短いなら短い分、充実した時間を過ごそうねってやつだよ!」
「わあ~前向き」
「今夜はオールナイト!」
「毎日オールナイトだけどな」
「いいのいいの、楽しければ!」
「フン……」
吸血生物たちの宴は、夜中続く。
「夏の夜だから仕方ないんじゃない?」
「蟹よ……俺としては一日中夜でもいいぐらいだ」
「なぜ?」
「俺の活動時間は夜だからだよ!」
ばさり、とマントを広げてみせる。
「室内でぐらいマント脱げば?」
「これが俺のアイデンティティーなんだよ! 吸血鬼といえば表が黒、裏が赤のマントだろ!」
長年孤独に生きてきた。でももうそろそろ生きるのが嫌になって、通販で銀色の杭を買ったところにやってきたのがこの蟹だ。
「吸血鬼らしさに拘りすぎるのが君の危ういところだね」
「危うい? 俺は吸血鬼なんだから、吸血鬼らしくするのは当然だろ」
「だったら喋りも高貴にしたら?」
「そんなことしたら周囲にバレる」
「いや常にマント着用してる方が怪しいよね」
「マントはアイデンティティーだって言ってるだろ」
「バレたいのかバレたくないのかどっちなの?」
「高貴な存在として敬意を払ってはほしいが退治されたくはない」
「わ~なんて都合の良い思考」
「蟹は俺を元気付けたいのかdisりたいのかどっちなんだ!?」
「どっちだろうねえ?」
「ニヤニヤするな! いや蟹だからニヤニヤしてるかどうかはわからないが、お前今絶対ニヤニヤしてるだろ!」
「ニヤニヤ」
蟹はハサミを左右に振る。
「く~! いやどっちにしても夜は長い方がいいんだ!」
「僕もだよ」
「え」
「君が安心して動ける時間は長い方がいいもんね」
「はあ~……蟹ぃ……」
「何」
「あんまり長すぎると寝る時間がなくなる」
「何……ちょうどいいぐらいの長さがいいってこと?」
「そう……。夏の夜は短すぎるので……」
「じゃあどれくらいの長さならいいわけ」
「秋かな……」
「秋ねえ……」
「秋の夜長って言うだろ?」
「言うけど……」
「秋は死の季節。死といえば吸血鬼!」
「一回死んでるんだっけ?」
「そう……そして蘇った」
「ヒューかっこいい~」
「ほんとにそう思ってるのか?」
「思ってるよ」
蟹が頷く。
「怪しい……」
俺は蟹をじっと見つめる。
「蟹は人間じゃないから読心はきかないよ~」
「くっ……」
「無駄なことはやめてトマトジュースでも飲んだら? 君が寝てる間にいい感じのやつお取り寄せしといたよ」
蟹が何もない空間から段ボールの箱を取り出す。
「えっそれって高いやつ……」
「そう! KAKOMANAIのトマトジュース! いらない?」
「……いる」
俺は蟹に向かって両手を差し出す。
「どうぞ~!」
蟹は段ボールを器用に開け、ジュースを一缶差し出した。
「蟹は飲まないのか?」
俺が受け取るのを確認してから、蟹は段ボールからもう一缶取り出し、残りを部屋の隅に置く。
「もちろん、飲むよ。僕も吸血蟹だからね」
「夜のデザートだな!」
「楽しいね!」
蟹が缶を開ける。
俺も缶を開ける。
「乾杯」
「かんぱーい! 夜が短いなら短い分、充実した時間を過ごそうねってやつだよ!」
「わあ~前向き」
「今夜はオールナイト!」
「毎日オールナイトだけどな」
「いいのいいの、楽しければ!」
「フン……」
吸血生物たちの宴は、夜中続く。