文披(ふみひらき)31題
なみなみに注がれて溢れそうになっている。
何がって、まあ「不安」。
この世界が変わってしまってから、人間の心には「不安」が堆積するようになった。
不安はそれぞれの心に徐々に溜まっていき、それが溢れたとき、その人は……おかしくなってしまう。
俺はこの世界が変わるより前からおかしかったので、問題はない。
いや、ある。
たぶん、この不安が満杯になったとき俺はさらにおかしくなってしまうのだろう。
仕方がないので不安を取り出し固めて、像を作っている。
不安には猫だ。だから猫。
不安には犬だ。だから犬。
もはやこの世の生物では計り知れない。だから竜。
たくさん作った。
作品をSNSにアップする。
評価は来ない。
それは当然で、不安から作り出された作品は皆禍々しい見た目をしており、一目見るだけで見た人の不安を倍増させそうな、そんな見た目だからだ。
誰が好んで不安を増やしに行く?
誰も。
なので、作品は俺が自分で見て「あーこれはひどいな……」と思うだけ。
いくら作ってもスキルが上がるわけでもなく、何の役にも立たない。
まあ俺の不安を減らすことができているという点では大いに役に立っている。
家が不安作品だらけになることを除けば、だが。
不安を積む。たくさん積む。
それでも最近は世界が終わりに近付いているせいで、不安が増す速さと作品を増やす速さが釣り合わない。
困る。困るが、まあおかしくなったときはおかしくなったときで、もはや正気などないのなら落ち込むこともない。
などと思うが、実際は少しずつ視界が歪んだり声が聞こえたりして「ああ、俺、何だかおかしくなってるな」と認識できる具合で、あまり良い気分ではない。
だから頑張って作品を増やす。
抱えた不安に身体が耐えられないのか、日に日に睡眠時間が増えてゆく。
いくら作品を増やしても、不安は増えていくばかり。
なみなみだ。
このままでは本当に危ないと思ったので、不安をドラム缶に移して、庭に埋めることにした。
だが庭はすぐに一杯になってしまい、不安のやり場がなくなった。
公園に埋めると危ないし、ごみに出すわけにもいかない。
圧縮できたら一番良いのだが、そんな器具もなく。
仕方がないので大きな作品を作ることにした。
身体の数倍もある、竜を。
自分の部屋が竜でいっぱいになった。
寝る場所もない。
なので竜の上で寝る。
そんな風に、制作を続けていた。
ある日、夕方に起きると、地面が動いていた。
周囲を見回すと、竜が翼を羽ばたかせて飛んでおり、俺は何かよくわからない場所にいた。
ははあ、ついに俺もおかしくなったか。
頭は妙に冷静で、来るときが来たという気持ち。
どこに行くんだろう。
建物は全くなく、だだっ広い森の上を飛んでいる。
随分遠くに来たようだ。
山のてっぺんに竜は降りる。
『ここで私と住むか、それとも死ぬか、好きな方を選びたまえ』
竜が喋る。
「どちらにせよ、俺は不安でおかしくなってしまうんだから一緒だろ」
と俺。
『ここは桃源郷。桃源郷に不安は存在しない。お前は一生楽に暮らせて、おかしくなることもない』
なるほど、俺はもうおかしくなった後なのか。
「家に帰りたいんだが」
『もはや家にお前の居場所はない』
となると、ここは病院か何かなのだろうか。
『長い間、よく頑張った』
「不安に耐えてただけだがな……」
『お前はもう苦しまなくて良い』
「本当は正気のまま生きたかったんだが」
『…………』
返事はない。
「寝るよ……案内してくれ」
竜が案内してくれた洞窟の中には白いベッドがあった。
「ここで寝ればいいんだな」
『そうだ』
「……一応、礼は言っておくよ。ありがとう」
『…………』
竜は黙っている。
俺はベッドに横になった。
眠りはすぐにやってきた。
俺は夢の中でこれを書いている。
結局俺は逃げることしかできなかった。
世界はもう、滅んでしまったのだろうか。
本当は何かを信じたかったが、何もかもが嘘だった。
だがもう、いいんだ。
終わってしまったから。
明日も夢を見ている。
何がって、まあ「不安」。
この世界が変わってしまってから、人間の心には「不安」が堆積するようになった。
不安はそれぞれの心に徐々に溜まっていき、それが溢れたとき、その人は……おかしくなってしまう。
俺はこの世界が変わるより前からおかしかったので、問題はない。
いや、ある。
たぶん、この不安が満杯になったとき俺はさらにおかしくなってしまうのだろう。
仕方がないので不安を取り出し固めて、像を作っている。
不安には猫だ。だから猫。
不安には犬だ。だから犬。
もはやこの世の生物では計り知れない。だから竜。
たくさん作った。
作品をSNSにアップする。
評価は来ない。
それは当然で、不安から作り出された作品は皆禍々しい見た目をしており、一目見るだけで見た人の不安を倍増させそうな、そんな見た目だからだ。
誰が好んで不安を増やしに行く?
誰も。
なので、作品は俺が自分で見て「あーこれはひどいな……」と思うだけ。
いくら作ってもスキルが上がるわけでもなく、何の役にも立たない。
まあ俺の不安を減らすことができているという点では大いに役に立っている。
家が不安作品だらけになることを除けば、だが。
不安を積む。たくさん積む。
それでも最近は世界が終わりに近付いているせいで、不安が増す速さと作品を増やす速さが釣り合わない。
困る。困るが、まあおかしくなったときはおかしくなったときで、もはや正気などないのなら落ち込むこともない。
などと思うが、実際は少しずつ視界が歪んだり声が聞こえたりして「ああ、俺、何だかおかしくなってるな」と認識できる具合で、あまり良い気分ではない。
だから頑張って作品を増やす。
抱えた不安に身体が耐えられないのか、日に日に睡眠時間が増えてゆく。
いくら作品を増やしても、不安は増えていくばかり。
なみなみだ。
このままでは本当に危ないと思ったので、不安をドラム缶に移して、庭に埋めることにした。
だが庭はすぐに一杯になってしまい、不安のやり場がなくなった。
公園に埋めると危ないし、ごみに出すわけにもいかない。
圧縮できたら一番良いのだが、そんな器具もなく。
仕方がないので大きな作品を作ることにした。
身体の数倍もある、竜を。
自分の部屋が竜でいっぱいになった。
寝る場所もない。
なので竜の上で寝る。
そんな風に、制作を続けていた。
ある日、夕方に起きると、地面が動いていた。
周囲を見回すと、竜が翼を羽ばたかせて飛んでおり、俺は何かよくわからない場所にいた。
ははあ、ついに俺もおかしくなったか。
頭は妙に冷静で、来るときが来たという気持ち。
どこに行くんだろう。
建物は全くなく、だだっ広い森の上を飛んでいる。
随分遠くに来たようだ。
山のてっぺんに竜は降りる。
『ここで私と住むか、それとも死ぬか、好きな方を選びたまえ』
竜が喋る。
「どちらにせよ、俺は不安でおかしくなってしまうんだから一緒だろ」
と俺。
『ここは桃源郷。桃源郷に不安は存在しない。お前は一生楽に暮らせて、おかしくなることもない』
なるほど、俺はもうおかしくなった後なのか。
「家に帰りたいんだが」
『もはや家にお前の居場所はない』
となると、ここは病院か何かなのだろうか。
『長い間、よく頑張った』
「不安に耐えてただけだがな……」
『お前はもう苦しまなくて良い』
「本当は正気のまま生きたかったんだが」
『…………』
返事はない。
「寝るよ……案内してくれ」
竜が案内してくれた洞窟の中には白いベッドがあった。
「ここで寝ればいいんだな」
『そうだ』
「……一応、礼は言っておくよ。ありがとう」
『…………』
竜は黙っている。
俺はベッドに横になった。
眠りはすぐにやってきた。
俺は夢の中でこれを書いている。
結局俺は逃げることしかできなかった。
世界はもう、滅んでしまったのだろうか。
本当は何かを信じたかったが、何もかもが嘘だった。
だがもう、いいんだ。
終わってしまったから。
明日も夢を見ている。