文披(ふみひらき)31題

 いつもいつも、叶わぬ願いばかりかけている。
 行きつけのスーパー。この時期になると、短冊と笹が飾られる。
 「ご自由にお書きください」と書かれた紙を見ながら、今年も叶いそうにない願いを書く。
 この日の空が晴れだろうが雨だろうが、俺の願いは叶わない。
 一度死んだものが蘇るなど摂理に反しているし、不可能だからだ。
 失ったものが多すぎて、振り返ることすらできない。その大きさで心が痛むから。
 
 古傷が疼く。この時期はいつも、調子が悪い。
 「平穏に暮らせますように」「病気が治りますように」
 ますます叶わない。
 あの頃と比べて世界はハードモードになり、富める者と貧する者の差が広がり続けている。
 当時の俺はまだ何も知らなくて、好奇心の赴くまま行動範囲を広げていた。
 短冊に書く願いも、ゲームが欲しいなどというかわいいもの。
 長じるほどに、抱く願いは不可能になった。
 
 忘れられずに苦しんだだけ解放が遅くなる、なんて言われても、俺もずっと囚われたまま■■年過ごしてきたのだから今更だ。
 短冊に書くよりもいっそ、寺かどこかに行った方がいいのかもしれないとも思う。
 踏ん切りがつかないままずるずると過ごして、こんなに時が経ってしまった。
 安息はどこですか。
 平穏はどこですか。
 聞いたって答えは返ってこない。
 
 馬鹿なことをしている、と思いながら今年も短冊を吊るす。
 今日が終わった後の短冊の行方はわからない。
 どこかで燃えていればいいが。
 
 そんなことを考えた。
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