短編小説(2庫目)

 俺はごく一般的な会社員。だったが、突如襲来した異星人に三日月型のワンポイントがついたチョーカー型のブザーをつけられ、一週間が経った。

 やりたくないことをするとブザーが鳴る。
 俺は仕事が嫌いだったらしく、何をしてもひっきりなしにブザーが鳴るので、■■くんもう君明日から来なくていいよと言われ、俺はすごすごと家に帰った。

 そりゃ何をしてもブザーが鳴る部下なんて嫌だろう。うるさいし。
 でもうるさいのは周囲の奴らだけじゃないんだ。俺自身が一番うるさいんだ。なぜってブザーは俺の首に取り付けられたチョーカーから振動つきで鳴ってるからな。困ってしまう。

 会社にいなけりゃ大丈夫かと思ったが、家にいてもブザーは鳴るし、買い物に行ってもブザーは鳴る。
 レジの列で待たされるときなんかに鳴るブザーに、周囲の客は何事かと俺を見て、すすす、と離れていく。
 帰り道、ヘッドフォンから気分に合わない曲が流れたときに鳴るブザーに通行人が露骨に俺を見て、嫌な顔をして去って行く。

 ……こんなの、外に出られないじゃないか! どうしてくれるんだ?
 と言っても、これを押しつけてきた当の異星人はどこか遠くに去ってしまって、文句の一つも届かない。
 自分が気にしなきゃいいんです、なんて声もあるだろうが、あいにく俺は他人の目が必要以上に気になるタイプで、特に迷惑そうな目を向けられた日には、その場に穴を掘って隠れたくなってしまう。
 まあ不可能だけど。

 無理してやっていたスキルアップの勉強も、親しくない友人たちとの交流も、ゲームさえも、ブザーが鳴るからできなくなってしまった。
 生活の幅が狭まった。と同時に、自分のことが信じられなくなってしまった。
 スキルアップの勉強がそんなに嫌だったのか。
 親しくない友人たちとの交流がそんなに嫌だったのか。
 好きだと思っていたゲームさえ嫌だったなんて。
 こんなの、何もできないじゃないか。

 弱音を吐いていても始まらないのでブザーが鳴らないことを探して行う。
 家事、ブザーが鳴らない本、掃除。
 そんなことはブザーがあっても行うことができた。
 しかし仕事をしなければ、そのうち暮らせなくなってしまう。
 人生が半ば詰んでいる。

 ブザーつきチョーカーを外せばいいじゃないかとお思いの諸君もいるだろう。
 俺は異星人の言葉を思い出す。
 チョーカーを外すと爆弾が爆発して首が飛びマースと言っていた。
 なるほどアレですね。だいぶ前に流行ったやつだ。
 俺の首が飛んでも誰も喜ばないと思うし、部屋を片付ける人に精神的苦痛を与えてしまうと思うので、外すつもりはない。それ以前に俺、死にたくないし。

 これからどうすればいいと思う? 小説なら解決策が見つかる方向に進むことが多いが、残念ながらこれは不条理系低温純文学なんだ。そう簡単に解決したらジャンルの意味がない。

 なあ、どうしたらいいと思う?

 なんてことを賢明な読者の皆様に問いかけても困惑させるだけだと思うので。
 やりたいことをやる、やりたくないことはやらない。
 そうするしかないだろう。

 これからどうなるかなんて知らない。やりたくないことを避けてやりたいことしかやらなくなった俺は、破滅する可能性の方が大きいだろう。
 残念だったな。
 それとも、よかったか?
 いずれにせよ、この物語はここで終わりだ。
 生きてたらまた会おう。
 それじゃあ。
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