蛇を積む
人間用社員食堂。といっても、この会社には俺しか人間がいないので、実質俺専用社員食堂なのだが。
「人間さん、こんにちは。今日は遅かったですね」
「こんにちは。少し集中してしまっていたようで」
「それはいいことですね。でも、ちゃんと食べないと健康を損ねてしまいますので、適度にしてくださいね」
「はい」
とりあえず頷いておく。
「今日は何にいたしますか?」
「ええと……」
カウンター上に貼ってあるメニュー表を見る。
この食堂はメインメニューが選択制となっており、客がした注文をロボットが受けて作り、日ごとに決まったサブメニューがついてくる。
それでだいたいの栄養バランスを取っているというわけだ。
「じゃあカレーで」
「カレーですか、承りました」
ロボットがカレーを作り始める。
俺はぼんやりとメニュー表を眺める。
うどんが載っている。
自然と、昨日のことが思い出される。
うどんを持って訪ねて来たシュレーディング。
そんなことを思い出してどうする? どうにもならない。人間と蛇は仲良くはなれないし、蛇のことを考えすぎるのもよくない。堕ちてしまう。
俺はまだこの会社で働いていたいからな。
この前SNSで限界かもしれないと言っていた人間はやはり後日いなくなっていた。死んだか逃げたかしたのだろう。
いずれにせよ、俺には関係のない話だ。
死ぬのは嫌だし、逃げるのも嫌だ。となると、心を殺して生きるしかないのだから。
「お待ち遠様。カレーです」
「ありがとうございます」
トレーを受け取って、席に向かう。
いつもの壁際に座り、
「いただきます」
手を合わせた。
そしてまた、ふわふわと考える。
『俺の同胞は蛇なので』
銃を向けてきた人間に言った言葉。
あれは俺の本心だったのだろうか?
もしそうだとしたら、俺が堕ちる日もそう遠くはない。
だがまあ、相手を傷つけるための嘘だったとも取れる。
なんて風によくわからない考えを回しているのは、俺が自分の本心を掴むのが下手だからだ。
普通の人間がどうなのかはわからない。スラム街にいた頃は、何を考えているかわからないなんてよく言われたりしていた。それで説明もできないのだから、「何を考えているかわからない」の評価は増すばかり。
そんな感じだ。
それはともかく、俺の同胞が今や蛇であるというのはある意味事実であり、周囲の環境に人間が一人もいないのだから、実質的に同胞が蛇である、になってもおかしくはないのだ。
まあシュレーディング以外の蛇は俺を冷たい目で見てくるが。
それだってスラム街にいたときと同じだ。慣れれば……いや、慣れられるものでもない。
これは「居場所」の問題である気がする。
蛇に魂を売った人間は蛇社会が居場所となる。
しかしながら何度も言うように、蛇社会の本心は人間を全て消し去ることであると思うので、そういった心理に支配された蛇たちが構成する会社を「本当の居場所」と感じることができるかどうかと考えると、難しいと言わざるを得ない。
となると、蛇に魂を売った人間は必然的に居場所がなくなるということになる。
だからあんなSNSで人間同士集まって正気を保ち合っているのだろう。
悲しい話だ。
社会の歪さがそれを生んでいるのだろうか。
だからといって、革命なんかを起こす気にもなれない。
スラム街にいた俺はスラム街の外のことを知らず、蛇社会に入った今でも情報統制で社会のことなんて全然知らない。
そんな状態で革命など夢のまた夢だ。いや、夢ですらない。革命が起きれば蛇は失脚する。蛇が失脚すれば、蛇に魂を売った人間はおそらく……
いや、食べているときにこんなことを考えるのはやめよう。ご飯がまずくなってしまう。
と言ってもほとんど食べ終わっているのだが。
その後は思考を切り替えて、茄子の煮びたしがおいしいな……などと思いながら、昼食を食べ終わった。
「人間さん、こんにちは。今日は遅かったですね」
「こんにちは。少し集中してしまっていたようで」
「それはいいことですね。でも、ちゃんと食べないと健康を損ねてしまいますので、適度にしてくださいね」
「はい」
とりあえず頷いておく。
「今日は何にいたしますか?」
「ええと……」
カウンター上に貼ってあるメニュー表を見る。
この食堂はメインメニューが選択制となっており、客がした注文をロボットが受けて作り、日ごとに決まったサブメニューがついてくる。
それでだいたいの栄養バランスを取っているというわけだ。
「じゃあカレーで」
「カレーですか、承りました」
ロボットがカレーを作り始める。
俺はぼんやりとメニュー表を眺める。
うどんが載っている。
自然と、昨日のことが思い出される。
うどんを持って訪ねて来たシュレーディング。
そんなことを思い出してどうする? どうにもならない。人間と蛇は仲良くはなれないし、蛇のことを考えすぎるのもよくない。堕ちてしまう。
俺はまだこの会社で働いていたいからな。
この前SNSで限界かもしれないと言っていた人間はやはり後日いなくなっていた。死んだか逃げたかしたのだろう。
いずれにせよ、俺には関係のない話だ。
死ぬのは嫌だし、逃げるのも嫌だ。となると、心を殺して生きるしかないのだから。
「お待ち遠様。カレーです」
「ありがとうございます」
トレーを受け取って、席に向かう。
いつもの壁際に座り、
「いただきます」
手を合わせた。
そしてまた、ふわふわと考える。
『俺の同胞は蛇なので』
銃を向けてきた人間に言った言葉。
あれは俺の本心だったのだろうか?
もしそうだとしたら、俺が堕ちる日もそう遠くはない。
だがまあ、相手を傷つけるための嘘だったとも取れる。
なんて風によくわからない考えを回しているのは、俺が自分の本心を掴むのが下手だからだ。
普通の人間がどうなのかはわからない。スラム街にいた頃は、何を考えているかわからないなんてよく言われたりしていた。それで説明もできないのだから、「何を考えているかわからない」の評価は増すばかり。
そんな感じだ。
それはともかく、俺の同胞が今や蛇であるというのはある意味事実であり、周囲の環境に人間が一人もいないのだから、実質的に同胞が蛇である、になってもおかしくはないのだ。
まあシュレーディング以外の蛇は俺を冷たい目で見てくるが。
それだってスラム街にいたときと同じだ。慣れれば……いや、慣れられるものでもない。
これは「居場所」の問題である気がする。
蛇に魂を売った人間は蛇社会が居場所となる。
しかしながら何度も言うように、蛇社会の本心は人間を全て消し去ることであると思うので、そういった心理に支配された蛇たちが構成する会社を「本当の居場所」と感じることができるかどうかと考えると、難しいと言わざるを得ない。
となると、蛇に魂を売った人間は必然的に居場所がなくなるということになる。
だからあんなSNSで人間同士集まって正気を保ち合っているのだろう。
悲しい話だ。
社会の歪さがそれを生んでいるのだろうか。
だからといって、革命なんかを起こす気にもなれない。
スラム街にいた俺はスラム街の外のことを知らず、蛇社会に入った今でも情報統制で社会のことなんて全然知らない。
そんな状態で革命など夢のまた夢だ。いや、夢ですらない。革命が起きれば蛇は失脚する。蛇が失脚すれば、蛇に魂を売った人間はおそらく……
いや、食べているときにこんなことを考えるのはやめよう。ご飯がまずくなってしまう。
と言ってもほとんど食べ終わっているのだが。
その後は思考を切り替えて、茄子の煮びたしがおいしいな……などと思いながら、昼食を食べ終わった。