短編小説(2庫目)

『残念ながら、これ以上の夢の閲覧には1000円、共有するには500円いただきます。サブスクリプションサービスもございます』
「わかりました、それではサブスクに」
『承認』



 夢のサブスクリプションサービスは快適、と言いたいところだったがどうも俺は何かよくない選択をしてしまったようで、1夢ごとに1500円かかっている。
 しかも夢を見たいか見たくないかには関わらず、そこで目覚めるには眠くて耐えられなかった場合でも強制的に1500円払わなければいけないのだ。
 いやそれは当然のことで、見たいか見たくないかに関わらず目覚めないなら見続けることになるので払う、という理屈はわかるのだが、サブスクなのに1夢1500円はさすがに暴利じゃないか?
 能動的に夢の続きが見たいって言ってるんじゃなくて、あるだろ、夢見てたら夢が途切れて次の夢になるやつ。あの現象が起こると無条件で1500円取られる。マジか。
 要するに1晩1500円以上払ってるようなものなので、とんでもない勢いでお金がなくなる。
 っていうかこれは消費生活相談センター案件なのでは?
 とは思うのだが、夢のサブスクリプションとかまだ社会に浸透していないし、そんな技術があるなんてことも聞いたことはないので、何ですかそれと言われて終了なのではなかろうか。
 やっぱり俺は騙されたのかも。
 困ったな。
 しかし解除することもできない。
 腹が立つから徹夜でもしてみようか。



 徹夜して朝寝落ちたら、二日分の料金をいただきますとか言って1万ほど引かれた。あんまりじゃないか?
 クレカを登録したのが間違いだった。とんだ悪徳業者だ。しかも意思疎通ができない。一方的にアナウンスが流れて引き落としされるだけで、メールも電話番号も書いてない。重ねて言うが、悪徳業者だ。
 俺は困って羊を眺めやるが、羊は眠っているだけで何も助けにならない。まあ羊とも意思疎通はできないし。
 困ったな。
 困ったので久々に外に出てみると黄砂が飛んでいて、目も鼻もぐずぐずになってしまった。
 でもせっかく外に出たんだし何もせずに帰るのは何だと思って食べ物を買って帰ってみる。
 だがそれで何か変わるわけでもなく。
 羊の鼻先に買ったドリアを持っていってみるが、羊は鼻先をすんすんさせただけで終わった。
 いったい誰がこれをやっているんだ? それすら確認せずに契約したのはどう考えても間違っていた。
 一度欲しくなったら我慢できないのが俺の悪いところだ。損しやすく騙されやすいタイプ。
 だって夢のサブスクなんて最高だと思ったんだよ。というか、そのときは眠くて、眠り続けたかったから何も考えずに契約してしまった。
 損だな。思いっきり損している。



 また徹夜して、装置を作った。
 ペットボトルに夢を詰めて、横流しする装置。
 夢は見られなくなるが、快適な眠りは保証されるのでまあいいだろう。
 俺はとにかく眠いんだ。どうせ夢なんて見ても悪夢なんだし、覚えておく意味もない。
『俺の夢を買わないか?』
 そうやって営業する。

 夢ビジネスは思ったより好調で、売れない芸術家とかが買ってくれる。
 何だこの商売は。心底馬鹿らしくなるが、生きるためには仕方がない。
 夢サブスクの事業主も案外こんな感じで業界入りしたのかもしれないな。
 なんてことを考えながら、今日もペットボトルを売って儲けた金で1500円を払っている。
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