短編小説(2庫目)

 雪の部屋で過ごしていた。室内なのに分厚く雪が積もった部屋で、一人。

 処理できていたと思った危険物が蘇ってやってきたので、ご丁寧にご帰宅いただいた。あんなものはこの世にあってはいけない。
 時々、忘れたと思っていたものたちが黄泉からやってくる。本当は死んでいる。いや、どこか遠くで生きているのかもしれない。
 正確なところはわからないが、俺にとっては死んだのと一緒なのだ。どこかわからない遠くにいて生きているのも、近くにいて死んでいるのも、どちらも同じ。
 本当は違うというのも知っているがこの雪まみれの部屋では何もかもが凍り付き、同じになる。在ることも無いことも等しく、氷付けの虚無になってしまう。
 それがいいことなのか悪いことなのかはわからない。わからないことだらけ。このままでいいのかどうかさえわからない。凍り付いているから。
 足が冷えて指が冷えて身体が冷えて、頭の中だけがぐるぐる回り続けている。もうとっくに死んだのに。俺は生きてはいないのに。
 本当は■■■いるのか?
 呼びかけは聞こえない。凍結してしまったから。
 叫び声も聞こえない。封殺してしまったから。
 ずっとずっと、どこか遠くに行きたいと思っていた。けれどもそれは「ここにいたくない」の裏返しで、ここを出てもどこにも行くところなどないし、受け入れてくれる社会もない。
 同じなのだ。何もかも冷え凍っていて、動くことはできない。
 わかっている。何もかも。わかったふりをしているだけなのかもしれないけれど、俺はそれをわかっているということなのだと思っている。
 詭弁だ。何もかも。真実はこの虚無だけ。
 何がよくなかったのか、何が駄目だったのか。そんなことを考えても仕方がない。現実はのろのろとしていて俺の全てを凍らせてしまう。
 ここから出ても無駄、何をしても無駄。纏わり付く無力感が頭の中をぐるぐる回して凍結させる。
 群青が見える。大量の蝶。俺はきっとおかしくなってしまった。きっと逃げているんだ。蝶なら俺を許してくれると。俺を一番許していないのは俺であるのに。
 知るはずもない。自分のことなど。
 窓を開けようとして、凍り付いていることに気付く。
 窓から見える世界は白く凍っている。
 誰もいない。みんな■■■しまったから。
 いつの間にか全てが終わっていた。いや、終わろうとしているのかも。
 何もかも引きずったままここに来てしまった。終わろうとしている瞬間もそれは同じで。
 けれど何もならない。なりはしない。雪の中で叫んでも声は吸収されてしまう。誰もいない、誰にも届かない。
 終わってしまったのだ。
 そう思って、窓にかけた手を下ろした。
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