短編小説(2庫目)

『やめとけって言ったよね』
「……」
『なんで■■したの?』

 友人の言葉はノイズがかっていてよく聞こえなかった。
 別に構わない。本物ではないのだし。

 明るい性格の友人だった。引きこもりがちな俺の部屋まで訪ねてきては遊びに誘ってくれる。
 もっとみんなと話さなきゃだめだよ、と言ってあちらこちらに引っ張り出して。
 俺にとって友人は光だった。

 大きくなって、なんとなく疎遠になって、それっきりだった。
 光のなくなった人生は、だが、案外それなりにやっていけるもので。

 事務的会話以外しなくても人間は生きていける。
 けれど。

 何が原因かはわからなかったが俺は体を壊した。

 それから俺は毎日寝て過ごすようになった。
 夢の中には色々なものが出てくる。■だったり、上司だったり、はたまた友人だったり。
 皆、同じことを言う。
『どうして■したのか』
 わからない。
 どうして、なんて訊くのがおかしいのだ。
 わかりきっているのだから。
 夢の中に出てくるものは俺が作り出しているわけで、俺自身なのだ。
 だから、どうして、なんて訊くのはおかしい。
 おかしいんだ。

 そもそもそれは別に■でもなんでもないし、■■■のものなら■には■れないはずだった。そのはず。
 そのはずなのだ。
 だからおかしい。

 けれど俺はもう、光の側にはいられない。
 友人と顔を合わせる資格だってない。
 終わったんだ。何もかも。
 少し調子を崩したくらいで何もかも終わったみたいに思うのはおかしい? まあそういう意見もあるだろう。
 しかし当事者にしてみるとそれが世界の終わりに感じられるもので、抱えきれない絶望で、限界なのだ。色々と。

 困ったものだ。いや、困ってはいないのか。
 このまま■が尽きるまで眠り続ければいいだけの話だし。
 それでも、光の側に立てなくなっても、一言お礼だけは言いたかった。
 あのとき助けてくれた礼を。
 既に光ではなくなっていた俺を信じてくれた礼を。
 疎遠になっても。

 もう二度と叶わない。
 知っていた。
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