短編小説(2庫目)

「うううこのゲームがクリアできないううう」
 僕が頭を抱えて唸っていると、
「どうしてクリアできないか考えたことありますか」
 ちょっかいをかけてくる同居人。
「やめてよそんな……違うんだ急に上から敵が落ちてきて死ぬんだよ、死神イズオーバー」
「身構えている時に死神は来ないものだ」
「踊らなきゃ……」
 僕はふらふらと立ち上がる。
「あの踊り倍速でやってるから常人にはできない踊りだぜ」
「そうなのか……練習しなきゃ」
 動画サイトを立ち上げようとする僕。
「お前はどうしてそんなにあの踊りを踊りたがるんだ」
「そりゃあもう……このゲームがクリアできなくてぐぬぬってなってるからだよ」
「そんなことより遊びに行こうぜ」
「このご時世どこに遊びに行くというのです」
 僕は同居人にびしっと指をさす。
「人に指をさしちゃいけないって学校で習わなかったのか?」
「生憎学校は廃止されたので」
「そうだったな、現代はかくも生き辛い」
「生き辛いって死語だよ」
「死後じゃないもん! イキイキ言語だもん!」
「長生きしすぎて古い言葉使っちゃうおじさんあるあるだよね」
「ちくしょう……ちょっと俺の方が年上だからって言っていいことと悪いことがある」
「ちょっとどころか100歳ぐらい年上だよね」
「ぐぬぬ」
 同居人はなんか長生きした蛇が妖怪になったやつらしく、長生きしている。
 といっても妖怪の中では若い方で、せいぜい120歳ぐらいにしかならないのだけれど。
「身構えているときに死神は来ないから身構えようよ、激安のなんとかでかぼちゃマスクを買うんだ僕は」
「ノリで行動すると後悔するぞ」
「後悔しないもん」
「それにあれ結構高いらしいぞ」
「なんで知ってるの」
「調べた」
「本当は君も踊りたいんじゃないの、あの踊り」
「そんなことはないぞ! そんなことはない!」
「めっちゃ踊りたいやつじゃん」
「キレキレダンスに憧れてるとかそんなことはないぞ!」
「遊びに行く代わりにメコンでかぼちゃマスクポチろうよ~」
「仕方がない……かぼちゃマスクを買う許可を与える」
「やったあ」
 僕はさっそく欲しいものリストに入れておいたかぼちゃマスクを二つ注文する。
「欲しいものリストに入れてたのかお前、そんなに欲しかったのか」
「僕も憧れてたからね。でもこれで憧れに手が届く! 毎日練習するぞ~!」
「で、ゲームはどうするんだ?」
「ゲームはしばらくお休みする。だって全然クリアできないんだもん……」
「俺が代わりにクリアしてやろうか?」
 ほれ、と同居人が手を伸ばす。
「自分でやりたいの~!」
 僕はコントローラーを抱え込む。
「そうかあ……」
 同居人は手を下ろす。
「じゃあ練習しようぜ」
「何の?」
「決まってるだろ。あの踊りだよ」
「切り替え早いね……」
「やると決まればやる男だからな俺は」
「まずは準備体操からだね」
「えーそれやらなきゃダメか?」
「準備体操しないと身体がパキパキになるからやらなきゃダメ。さ、両手を上に上げて肩をなんたらかんたらする体操~!」
「へいへい……」
 僕たちは体操する。
 同居人は身体をくねくねさせる。
 蛇だったときの癖が出ているのだ。
 その後あの踊りの練習をしたのだが、同居人が疲労したのは高速くねくねダンスで、動きそれじゃないよ~と言いながらも笑ってしまった。
 そんな休日。
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