探しものは月より

 顧客の家に商品を届けた帰り、売り子はぶらぶらと歩いていた。
「今日の仕事も一件きり。はー、ヒマだなー」
 詰め所の前を通りがかり、目を留める。
「ん?」



「なーにやってんですかっ」
「う、売り子!」
 涙目の保安官は吸いかけの煙草を急いで隠そうとして隠せず、ため息をつく。
「そんなまずそうに煙草吸う人見たことない」
「いや、これは、うまいもまずいもない、煙草は……その……」
「嫌いなんですか? 泣くほど咳き込むぐらいなら吸わなきゃいいのに」
「……煙草ぐらい吸えなければ、他の保安官たちに示しがつかん」
「へえ?」
 売り子が煙草をひょい、と取り上げる。
「あっ、お前」
 そのまま煙草を吸う売り子。
「……」
 ふう、と煙を吐く。
「おいしいやつ買ってんのにもったいないよ。健康に悪いし、これからやめな?」
 はい、と煙草を返す売り子。
 保安官は一瞬固まった後、
「か……返すんじゃない!」
 と叫ぶ。
「え?」
 不思議そうに、売り子。
「お前一回吸っただろう! 一度吸ったものを返すんじゃない!」
「あー。それ気にします?」
「ふざけるなよ……」
「ごめんごめん」
 返した煙草をもう一度受け取り、口にくわえる売り子。
「保安官さんって意外に潔癖だったのね」
「意外には余計だ、意外には。感染症とか、あるだろう」
「ああ、マルウェアとか? データ開いたら感染とかありますもんね」
「知っているなら気をつけろ。あの店の教育はどうなっとるんだ」
「ごめんって」
「……まったく」
「でも友達契約したらその辺りフリーになるしー? いいんじゃないですか?」
「お前と契約はせん! 保安官は民間人と友になぞなってはいけないのだ!」
「あらあら」
 売り子は苦笑する。
「俺は保安官さんと友達になりたいですけどね」
「な……」
 絶句する保安官。
「帰れ!」
「はは、ごめんって」
 保安官に出口まで押し出され、ばたんと扉が閉まる。
「また怒らせちゃったな……」
 歩き出して、あ、と立ち止まる。ポケットに手を入れる売り子。煙草の箱がある。
「パクってきちゃった」
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