秋だ! 鏡水たまり氏コラボ・虚無きのこ祭り会場
「……来たか」
「魔王」
「我はこの世界の魔王ではないが……勇者、お前が来た以上、もてなす相手は必要であろう。いざ尋常に……」
「戦う気はない」
「何? 勇者ともあろう者が臆したか」
「戦っても無駄だと知っているからな」
「無駄、だと?」
「取り残された者同士だろう、俺も、お前も」
「なぜそれを」
「なぜだろうな……『わかる』んだよ。世界の意志、みたいなものなのかもしれない」
「……」
「俺が作られた存在だってことも、それがこの世界の魔王の気まぐれだったことも、俺がここに辿り着く前に魔王はまた気まぐれを起こして虚無のきのこに呑まれたことも、そうしてお前が取り残されたことも」
「……隠しても無駄、か」
「そういうことだな」
「それで、全てが終わろうとしている今、お前は何のつもりでここに来たのだ」
「決まってるだろ。世界を救うためだよ」
「この世界は手遅れだ。取り込まれた者どもの力をループで増殖させ吸収したあのきのこは繁殖に繁殖を重ね、世界を飲み込もうとしておる。それはもう、止められない速度で」
「それも知ってる」
「ならば、なぜ」
「それは俺が勇者だからだよ」
「作られた存在が何を言う?」
「作られた存在であろうが勇者は勇者だ。勇者は世界を救う、昔からそう決まってるんだよ」
「だが……」
「この世界と共に滅ぶつもりだったんだろう、別世界の魔王サマ」
「……」
「責任の取り方はもっと別にある。俺に力を貸せ、魔王」
「何をしても無駄だとわかっておるのにか?」
「お前の力で『魔王』概念を辿り、ループ内のこの世界の魔王にアクセスして因果をねじ曲げる。あのきのこの存在は『なかったこと』になる」
「だがそれをしようがあいつを滅さねばまた同じものを作るかもしれぬぞ?」
「そのときはまた同じことをするだけだ」
「我が力を貸すとも限らないのにか?」
「いいや、お前は力を貸すはずだ」
「なぜわかる?」
「お前が神、世界の意志だからだ」
「……」
「そうだろう」
「とうに捨てた役割だ。今はシステムが遂行している」
「だが力はあるんだろう」
「……あいつには言わぬと約束しろ」
「わかってるよ」
◆
「あれ。……なんで君がいるわけ? 僕ってばループから抜けちゃったのかー?」
「くだらん。本当にくだらん。他に何か言うことはないのか、この阿呆」
「ひどいなぁ、久々の再会なのに君ってば本当にひどい、さすが魔王!」
「我は魔王ぞ」
「知ってる知ってる。あーでも面白かった、いや、でもどうかな……何か足りない気がしてたんだよね、それが何かって、何だろわかんないけどさぁ、ね~つまんないよぉ虚無きのこどこ行っちゃったの?」
「あれは消えたぞ」
「消えたのー!?」
「あんなものがこの世にあってはならんのだ」
「つまんない、ほんと君ってばつまんない!」
「消したのは我ではない、勇者だ」
「え、勇者ってもしかしてあれのこと!? 俺遊びで権限付与したのにあれマジで世界救ったの!?」
「お前は本当に愚かだ。やめておけと言ったものを」
「えーでも面白! そんなことあるんだねー。面白いなぁ最高じゃん感動じゃん? 何何、何があったの、教えて先輩!」
「先輩としての黙秘権を行使する」
「え~。ひどいよぉ」
「お前は少しは大人しくなる気はないのか」
「大人しくぅ~? ないね! つまんないじゃん! でもさぁ俺この世界そろそろ飽きたな~! 散々遊んだしもう一旦いいかなって感じ! ね~何か新しいの作ろうよ新しいの! 行こう新天地! 作ろう新世界! もちろん一緒に来るよね?」
「ああ」
「やった~先輩ノリがいい~! そうでなくちゃ! やっぱ君がいないとつまんないね! 仲間は多い方がいい、勇者も魔王もね!」
「何でも構わんが……次はほどほどにしろよ」
「どうかな~?」
◆
「……勇者くん?」
「気が付いたか、斧使い」
気が付いたも何も、僕びっくりしてるんだけど。なんでいるの? しかもここどこ? こんなのループにないよ?
「ここは魔王城、の外に広がる野原だな」
「なんでそんなとこに?」
「きのこが消滅したからだ」
えっ聞いてない。
「まあ何やかやあって、世界は平和になった」
「えっ」
「そんなわけで俺もお前も自由だ」
「えー?」
突然言われても困るしもうちょっと状況を説明してほしいんだけど。
「まあ、おいおいな」
「えー!」
「お前はずっと隠してただろ」
「ぐっ……それを言われると反論できない」
「もう一度一緒に旅をしよう、お前がいなかった間、見せられなかったものを見せたい」
「何それ……プロポーズ?」
「どうだろうな」
「君ほんと、そういうとこだよ」
「どういうとこだ」
「あーもう……いいよもう!」
赤くなった頬を見せないよう手で顔を隠したらぐいっと手を解かれてほんとそういうとこだよと思った。
(おわり)
「魔王」
「我はこの世界の魔王ではないが……勇者、お前が来た以上、もてなす相手は必要であろう。いざ尋常に……」
「戦う気はない」
「何? 勇者ともあろう者が臆したか」
「戦っても無駄だと知っているからな」
「無駄、だと?」
「取り残された者同士だろう、俺も、お前も」
「なぜそれを」
「なぜだろうな……『わかる』んだよ。世界の意志、みたいなものなのかもしれない」
「……」
「俺が作られた存在だってことも、それがこの世界の魔王の気まぐれだったことも、俺がここに辿り着く前に魔王はまた気まぐれを起こして虚無のきのこに呑まれたことも、そうしてお前が取り残されたことも」
「……隠しても無駄、か」
「そういうことだな」
「それで、全てが終わろうとしている今、お前は何のつもりでここに来たのだ」
「決まってるだろ。世界を救うためだよ」
「この世界は手遅れだ。取り込まれた者どもの力をループで増殖させ吸収したあのきのこは繁殖に繁殖を重ね、世界を飲み込もうとしておる。それはもう、止められない速度で」
「それも知ってる」
「ならば、なぜ」
「それは俺が勇者だからだよ」
「作られた存在が何を言う?」
「作られた存在であろうが勇者は勇者だ。勇者は世界を救う、昔からそう決まってるんだよ」
「だが……」
「この世界と共に滅ぶつもりだったんだろう、別世界の魔王サマ」
「……」
「責任の取り方はもっと別にある。俺に力を貸せ、魔王」
「何をしても無駄だとわかっておるのにか?」
「お前の力で『魔王』概念を辿り、ループ内のこの世界の魔王にアクセスして因果をねじ曲げる。あのきのこの存在は『なかったこと』になる」
「だがそれをしようがあいつを滅さねばまた同じものを作るかもしれぬぞ?」
「そのときはまた同じことをするだけだ」
「我が力を貸すとも限らないのにか?」
「いいや、お前は力を貸すはずだ」
「なぜわかる?」
「お前が神、世界の意志だからだ」
「……」
「そうだろう」
「とうに捨てた役割だ。今はシステムが遂行している」
「だが力はあるんだろう」
「……あいつには言わぬと約束しろ」
「わかってるよ」
◆
「あれ。……なんで君がいるわけ? 僕ってばループから抜けちゃったのかー?」
「くだらん。本当にくだらん。他に何か言うことはないのか、この阿呆」
「ひどいなぁ、久々の再会なのに君ってば本当にひどい、さすが魔王!」
「我は魔王ぞ」
「知ってる知ってる。あーでも面白かった、いや、でもどうかな……何か足りない気がしてたんだよね、それが何かって、何だろわかんないけどさぁ、ね~つまんないよぉ虚無きのこどこ行っちゃったの?」
「あれは消えたぞ」
「消えたのー!?」
「あんなものがこの世にあってはならんのだ」
「つまんない、ほんと君ってばつまんない!」
「消したのは我ではない、勇者だ」
「え、勇者ってもしかしてあれのこと!? 俺遊びで権限付与したのにあれマジで世界救ったの!?」
「お前は本当に愚かだ。やめておけと言ったものを」
「えーでも面白! そんなことあるんだねー。面白いなぁ最高じゃん感動じゃん? 何何、何があったの、教えて先輩!」
「先輩としての黙秘権を行使する」
「え~。ひどいよぉ」
「お前は少しは大人しくなる気はないのか」
「大人しくぅ~? ないね! つまんないじゃん! でもさぁ俺この世界そろそろ飽きたな~! 散々遊んだしもう一旦いいかなって感じ! ね~何か新しいの作ろうよ新しいの! 行こう新天地! 作ろう新世界! もちろん一緒に来るよね?」
「ああ」
「やった~先輩ノリがいい~! そうでなくちゃ! やっぱ君がいないとつまんないね! 仲間は多い方がいい、勇者も魔王もね!」
「何でも構わんが……次はほどほどにしろよ」
「どうかな~?」
◆
「……勇者くん?」
「気が付いたか、斧使い」
気が付いたも何も、僕びっくりしてるんだけど。なんでいるの? しかもここどこ? こんなのループにないよ?
「ここは魔王城、の外に広がる野原だな」
「なんでそんなとこに?」
「きのこが消滅したからだ」
えっ聞いてない。
「まあ何やかやあって、世界は平和になった」
「えっ」
「そんなわけで俺もお前も自由だ」
「えー?」
突然言われても困るしもうちょっと状況を説明してほしいんだけど。
「まあ、おいおいな」
「えー!」
「お前はずっと隠してただろ」
「ぐっ……それを言われると反論できない」
「もう一度一緒に旅をしよう、お前がいなかった間、見せられなかったものを見せたい」
「何それ……プロポーズ?」
「どうだろうな」
「君ほんと、そういうとこだよ」
「どういうとこだ」
「あーもう……いいよもう!」
赤くなった頬を見せないよう手で顔を隠したらぐいっと手を解かれてほんとそういうとこだよと思った。
(おわり)
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