秋だ! 鏡水たまり氏コラボ・虚無きのこ祭り会場
「ママ」
「なんですか」
「息子と夕方の散歩に行ってくる」
「いってくるー!」
「はあい、あまり遅くならないでね。今日の晩ご飯はホワイトシチューですよ」
「わかっているよ」
「はーい!」
私は先に靴を履いて、そして、息子が靴を履くのを手伝う。
まだ小さい息子は一人で靴を履くのに苦労する。こうして手伝ってやるのは甘やかしてしまっているんだとは思うが、かわいい息子を助けてやりたいって親なら思うだろう? それだよ。
家を出て、小道を歩く。ヒヨヒヨと鳥の声。
「あれは?」
「ヒヨドリさ」
「じゃああれは?」
「スズメだよ」
「パパってなんでも知ってるの?」
「なんでも知ってるさ」
私は自慢げに答える。
「パパに答えられないことはないんだよ」
息子は目を輝かせる。
「じゃあ、じゃあ! このきのこは?」
来たぞ。
私は一つ、瞬きをする。
「パパはなんでも知っている」
「うん!」
「だけど、答えていいのかな?」
「……? しらないの?」
「いいや、なんでも知っているよ」
「ねえ、このきのこはなに?」
「このきのこはね」
言葉を切って、
「空間をひっくり返して虚無へと誘うきのこなんだよ」
「え?」
「その証拠に、ほら」
きのこががばりと口を開け、周囲がさあっと虚無に落ちる。それを持っていた私も虚無に落ちていく。
「パパ!」
「はっはっは、元気でな、息子よ!」
「パパー!」
「はっはっは、はっはっは」
ホワイトシチューは食べられなかった。
◆
「パパ!」
「パパ……」
◆
「ママ」
「なんですか」
「息子と夕方の散歩に行ってくる」
「いってくるー!」
「はあい、あまり遅くならないでね。今日の晩ご飯はホワイトシチューですよ」
「わかっているよ」
「はーい!」
小道にはオレンジ色の夕陽が射し込んでいる。
何の気まぐれか、きのこのところに行くまでに、私は息子に話をした。
「……ということがあってな」
「パパ?」
「なんだい」
「じゃあ、パパはどうして今ここにいるの?」
「それはね、息子よ。ここが何周もした後の世界だからだよ」
「……?」
視線を下げると、あのきのこが生えている。
「ほら、ここにきのこがあるだろう」
「……帰ろうよ」
息子がぼそりと呟く。
「なぜだい?」
「僕、このきのこのことは知りたくない。帰ろう、パパ」
おかしいな。こんな展開は知らないぞ。この後はいつものように虚無が現れ飲み込まれる、それだけのはずなんだが。
そういえば、私が「周回」について言及するのも始めてかもしれないぞ。
「帰ろうよぉ」
「しかし……」
「帰らないと、僕……パパのこと嫌いになるからね」
「そ、それは困る!」
愛する息子に嫌われる、それは一番避けねばならないことだ。嫌われたりしたら、その後はどうなる? とても耐えられる気がしない。困った、困ったぞ。
「じゃあ帰ろうよ!」
困った……
「パパ」
「うん……」
「帰ろう、ね」
「そこまで、言うなら」
私は頷く。
「帰ろうか……」
息子の手を取ると、急速に日が落ちる。そういえば今は夕方だった。
夜。手を繋いで家に帰ると、夕食はホワイトシチュー。
このホワイトシチューを食べないまま、何度繰り返しただろう。
「おいしいね!」
「頑張って作ったかいがあったわ。パパはどう?」
「……おいしい、な」
「パパー、なんで泣いてるの?」
「大丈夫? お仕事で何かつらいことでもあった?」
「なんでもない、なんでもないんだ……ただ……あまりにもおいしくて……」
「あらあら」
「おいしくて泣くなんて、へんなのー!」
「おかわりたっぷりありますからね、どんどん食べてちょうだい」
「ああ……」
何事もなく夜は過ぎ、朝になり、昼が過ぎ、夕方息子と二人で散歩に出ると、きのこはどこにもなかった。
「なんですか」
「息子と夕方の散歩に行ってくる」
「いってくるー!」
「はあい、あまり遅くならないでね。今日の晩ご飯はホワイトシチューですよ」
「わかっているよ」
「はーい!」
私は先に靴を履いて、そして、息子が靴を履くのを手伝う。
まだ小さい息子は一人で靴を履くのに苦労する。こうして手伝ってやるのは甘やかしてしまっているんだとは思うが、かわいい息子を助けてやりたいって親なら思うだろう? それだよ。
家を出て、小道を歩く。ヒヨヒヨと鳥の声。
「あれは?」
「ヒヨドリさ」
「じゃああれは?」
「スズメだよ」
「パパってなんでも知ってるの?」
「なんでも知ってるさ」
私は自慢げに答える。
「パパに答えられないことはないんだよ」
息子は目を輝かせる。
「じゃあ、じゃあ! このきのこは?」
来たぞ。
私は一つ、瞬きをする。
「パパはなんでも知っている」
「うん!」
「だけど、答えていいのかな?」
「……? しらないの?」
「いいや、なんでも知っているよ」
「ねえ、このきのこはなに?」
「このきのこはね」
言葉を切って、
「空間をひっくり返して虚無へと誘うきのこなんだよ」
「え?」
「その証拠に、ほら」
きのこががばりと口を開け、周囲がさあっと虚無に落ちる。それを持っていた私も虚無に落ちていく。
「パパ!」
「はっはっは、元気でな、息子よ!」
「パパー!」
「はっはっは、はっはっは」
ホワイトシチューは食べられなかった。
◆
「パパ!」
「パパ……」
◆
「ママ」
「なんですか」
「息子と夕方の散歩に行ってくる」
「いってくるー!」
「はあい、あまり遅くならないでね。今日の晩ご飯はホワイトシチューですよ」
「わかっているよ」
「はーい!」
小道にはオレンジ色の夕陽が射し込んでいる。
何の気まぐれか、きのこのところに行くまでに、私は息子に話をした。
「……ということがあってな」
「パパ?」
「なんだい」
「じゃあ、パパはどうして今ここにいるの?」
「それはね、息子よ。ここが何周もした後の世界だからだよ」
「……?」
視線を下げると、あのきのこが生えている。
「ほら、ここにきのこがあるだろう」
「……帰ろうよ」
息子がぼそりと呟く。
「なぜだい?」
「僕、このきのこのことは知りたくない。帰ろう、パパ」
おかしいな。こんな展開は知らないぞ。この後はいつものように虚無が現れ飲み込まれる、それだけのはずなんだが。
そういえば、私が「周回」について言及するのも始めてかもしれないぞ。
「帰ろうよぉ」
「しかし……」
「帰らないと、僕……パパのこと嫌いになるからね」
「そ、それは困る!」
愛する息子に嫌われる、それは一番避けねばならないことだ。嫌われたりしたら、その後はどうなる? とても耐えられる気がしない。困った、困ったぞ。
「じゃあ帰ろうよ!」
困った……
「パパ」
「うん……」
「帰ろう、ね」
「そこまで、言うなら」
私は頷く。
「帰ろうか……」
息子の手を取ると、急速に日が落ちる。そういえば今は夕方だった。
夜。手を繋いで家に帰ると、夕食はホワイトシチュー。
このホワイトシチューを食べないまま、何度繰り返しただろう。
「おいしいね!」
「頑張って作ったかいがあったわ。パパはどう?」
「……おいしい、な」
「パパー、なんで泣いてるの?」
「大丈夫? お仕事で何かつらいことでもあった?」
「なんでもない、なんでもないんだ……ただ……あまりにもおいしくて……」
「あらあら」
「おいしくて泣くなんて、へんなのー!」
「おかわりたっぷりありますからね、どんどん食べてちょうだい」
「ああ……」
何事もなく夜は過ぎ、朝になり、昼が過ぎ、夕方息子と二人で散歩に出ると、きのこはどこにもなかった。
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