短編小説

 起きました
 隣で誰かが寝ています
 **しました。なんとなく腹が立ったのです。
 それをどうしようか私は迷います。放っておくと腐ってしまいます。不快なのはいやでした。
 そこは私の家ではなかったので、服を着て荷物をまとめ、外に出ました。
 家に帰ると、手に血がついていたので洗いました。血はなかなかとれませんでしたが、石鹸を使うと落ちました。よかった。
 私はそれからお風呂に入り、服を着替えてから学校に行きました。
 今日の授業はとても集中して聞けました。いつもは心配事ばかりで気が思いのですが、今日はとても気分が軽く、生まれ変わったようでした。
 私は学食に行きました。もちろん、近い方です。遠いほうには私の嫌いな人がいるかもしれないので行きません。
 私の嫌いな人とは、私が今日**してきた人です。もう起き上がって、その人も今日学校に来ているかもしれないので、会うかもしれない場所には行きたくありませんでした。
 汚い血がまだついているような気がしたので、私はまた手を洗いました。
 午後の授業が終わって、私は友達とパフェを食べに行きました。友達がこまっていたので話を聞いてあげました。私の方は、何も話すことがありませんでした。とても幸せでした。話すことなんて、ないに限ります。
 家に帰るのがなんとなく億劫で、私は図書館に行きました。新聞を読んだり、美術の本をめくったりしました。私はゴヤの絵を熱心に見ました。
 そうしているうちに、22時になって図書館が閉まりました。
 私は家に帰りました。ご飯を作って食べました。
 ご飯は失敗で、脂っこくて食べられたものではありません。でも、お腹が空いていたし、食べないと死ぬので食べました。
 最近、どんな料理を作っても失敗ばかりでまずいです。たまにはおいしいものが食べたいです。
 おいしいものが食べたいと思って何か買うと、普段買わない反動でたくさん買ってしまいます。それでお金がなくなって、ろくな物を食べられなくなったときがあったので、私はようじんぶかくして何も買いません。

 洗濯を回すのをわすれていました。服は汚いので、洗わなければ。私の嫌いな人の血がついているのです。
 洗濯を回しました。回している間、私は食器を洗いました。お茶も沸かしました。
 洗濯ができたので私は服を取り出しました。汚れはとれていませんでした。
 私は服を流しで洗いました。でも、汚れはとれません。何度洗ってもとれません。手についた血も、服についた血もとれたのに、その汚れだけが何度洗ってもとれません。私は何時間もそれを洗いました。
 外が明るくなるころ、手が痛くなってきたので、そろそろやめようと思ってやめました。服の汚れはとれなかったので、私は服を捨てることにしました。

 服を新聞紙にくるんで、捨てます。昔は新聞をとっていましたが、今はお金がないのでやめてしまいました。どうせ新聞を読んでも誰とも話すことができないのでとったって意味がありません。新聞に書かれていたことについて話すと、みんなに嫌われてしまうので知らないほうがましです。みんなは、みんなの知らない話をする私が嫌いなのです。

 私は、みんなにわかるような話し方がへたくそです。だから私の話は誰にも聞いてもらえません。
 みんなは私の話がつまらないし、私はみんなの話がつまらない。そんな調子だから、私は誰とも仲良くなれません。
 どうして私はこうなんだろうと家に帰ってからいつもおちこみます。でもともだちはできません。
 ともだちがいないなんて変だとせんせいはいいます。だけど私にはともだちができないんです。がんばってはいるんです。でもともだちができないんです。
 あなたは学級委員なのだから、かわいそうなあの子の面倒を見てともだちになってあげてと先生はいいました。
 ともだちのいない私があの子とともだちになれるわけがない。先生は何を言っているのだろう、とわたしはおもいました。私にともだちがいないことを知っているくせに、どうしてそんなことを言うのだろうと思いました。
 ともだちになんかなれませんでした。私はその子をいじめました。どこにでもついてくるその子が疎ましくて、憎くて、無条件の信頼が怖くて怖くてたまりませんでした。何か裏があるんじゃないか、ないならその子が異常なんだと私は思ってその子をいじめました。
 何も起こりませんでした。その子は私に近づかなくなり、私はせんせいに怒られました。
 失望した、とせんせいはわたしのおかあさんに言ったそうです。そんなこと知りません。わたしは人とともだちになれないようにできているんだから、初めから無理な事は決まっていたのです。知っていたくせに、それを頼んだ先生が悪いのです。

 ……私はそこで我に返りました。服を手に持ったまま、硬直していました。
 新聞紙ひとつでこんなことを思い出すなんて、最悪です。服は汚れているし、早く捨てなければ。
 私は服を手早く包んでゴミ袋に入れました。ついでに他のごみも回収してゴミ袋に入れます。
 気持ち悪くなってきたのでトイレに行きます。昨日のご飯はやはり失敗でした。
 ちょっとだけ寝ようと思って寝て、起きたら外が暗くなっていました。私はあーあと思ってまた寝ました。
 ひとを**したのに、誰も何も言ってきません。私が外に出ないから、きづかれてないのかな。私は悪い事をしたのに、誰も言ってくれません。どうしてだろう。ともだちがいないからだろうか。
 ともだちはいません。私がおもしろくない暗い話ばかりするので、みんないなくなってしまいました。みんな私のことを忘れてしまったから、何も言ってくれないんです。この前だって、相槌がまずかったんです。私は口を開くとろくなことを言わない。わかっているのに、どうして喋ってしまうのでしょう。
 私は病原菌のようでした。どんな話も、私が喋ると暗くてつまらなくて長い話になるのです。二度と何も喋らないぞと思って口を閉じましたが、時すでに遅し。

 私は一人、部屋の中で丸まっています。二日に一度、おいしくないご飯を食べています。いつになったらご飯がなくなるのかわかりません。食べたくないのに、食べてしまいます。おなかも痛いです。でも食べなければいけないと思って食べます。もう何も食べたくなんかないんです。ずっと寝ていたいんです。忘れていたいんです。もうたくさんなんです。
 **しても、何も変わりませんでした。どうして?
 助けてください。誰か私をたすけて。どうしてこんなことになってしまったのだろう。こんなつもりじゃなかった。こんな風に生きるつもりじゃなかった。夢だって意志だってあったのに、荷物が重くて動けない。私はただ布団で丸まります。
 いつになったら終わるのだろう。
 鉛色の空から雪が降ってきました。


(おわり)
177/190ページ
    スキ