ロッカーを開けるとそこは
『先輩先輩』
「またお前か」
『あー先輩ったらひどいですね~。せっかくかわいい後輩が通話してあげているというのに!』
人生に疲れ、会社のロッカーから異世界転移していった後輩。
そうなるまで俺と後輩は毎年バレンタインにチョコの交換をしていた。
後輩が転移していってからは交換する相手もいなくなると思ったのだが、なんとバレンタイン当日、後輩はあのロッカーに手紙付きのチョコを転移させてきた。
そんなこんなで互いにチョコ系のものを交換するバレンタインデーが数年過ぎ、一昨年は後輩がロッカーからこちらに遊びに来たりなんかして、そして禍が来て昨年のバレンタイン。
俺と話す専用のマジックアイテムを作ってもらったらしい後輩は、その後から時々俺に電話? をかけてくるようになった。
『先輩~聞いてます?』
「ああ、聞いてる聞いてる」
包丁で刻む。この刻み方でいいんだよな。
『忘れてませんよね?』
「何をだ」
『今年のバレンタインですよ!』
「さて、どうかな」
『えっ』
「当日になってからのお楽しみだ」
そろそろ湯が湧いたころだ。
『ええ~! でも俺は信じてますからね! 先輩のこと!』
「信じなくていい、信じても信じなくても結果は同じだ」
俺は額の汗を拭いながら、ボウルにざらざらと入れる。
『今日の先輩なんか冷たくないですか!?』
「平常運転だ」
『ぶ~!』
「ま、楽しみに待ってるんだな」
『え、じゃあ期待しちゃいますよ!』
「勝手にしろ」
『えへへ……』
◆
次の日。
夜。
『先輩先輩!』
「何だ」
『あの……もしや今回の先輩のチョコは手作りですか!?』
「ちゃんとエプロンと帽子とマスクと手袋して作ったぞ」
『えっそれはそれでかわ……いやそういう問題ではなく! ひょっとして俺、愛されてる!?』
「そりゃまあお前、そんだけ仲間がいたら愛されてるだろ」
『違いますよ! ひょっとして先輩俺のこと好』
「さて、どうかな。……お前からのチョコも見たぞ、今回はザッハトルテか。まさかそれも手作りとか言うんじゃないだろうな」
『手作りですよ!』
「なっお前……料理の腕上がってないか!?」
『旅してると料理は必須スキルですからね~! 仲間に教えてもらってるんですよ』
「ふうん……すごいじゃないか」
『あっ褒めてます!?』
「毎日カップ麺ばかり食べていたお前がなあ……」
『それは言わない約束でしょ~!』
「ふふ……」
『も~! で先輩先輩、まだ俺のザッハトルテ食べてないならこれから二人でお互いのやつ食べません!?』
「別にいいが……」
『やったー嬉しい! さっ用意してくださいお皿とフォーク!』
「おう」
『はい』
「えっ」
俺の前に皿とフォーク、さらには淹れたての紅茶が現れる。
「なっお前」
『サプライズです!』
「こんなことできるようになったのか……」
『色々教えてもらって改良したんですよ。バレンタインにお目見えしようかなーと思って!』
「へえ……それもまた、すごいじゃないか。自分でやったのか」
『そうです! えへへ!』
「成長したなあ……」
『ドヤ!』
顔は見えないが、後輩が胸を張っている様子が目に浮かぶ。
ふふ。
俺は冷蔵庫からザッハトルテを出し、皿に盛り付ける。
『さ、食べましょ! 先輩!』
「おう」
『じゃあ!』
『「いただきます!」』
いつの間にか日常となった後輩との通話。
不在となった日々が過ぎ、存在は再び濃くなった。
こんな風にして少しずつ日常が過ぎゆくのもまあ、悪くはないと思う。
そんな話。
「またお前か」
『あー先輩ったらひどいですね~。せっかくかわいい後輩が通話してあげているというのに!』
人生に疲れ、会社のロッカーから異世界転移していった後輩。
そうなるまで俺と後輩は毎年バレンタインにチョコの交換をしていた。
後輩が転移していってからは交換する相手もいなくなると思ったのだが、なんとバレンタイン当日、後輩はあのロッカーに手紙付きのチョコを転移させてきた。
そんなこんなで互いにチョコ系のものを交換するバレンタインデーが数年過ぎ、一昨年は後輩がロッカーからこちらに遊びに来たりなんかして、そして禍が来て昨年のバレンタイン。
俺と話す専用のマジックアイテムを作ってもらったらしい後輩は、その後から時々俺に電話? をかけてくるようになった。
『先輩~聞いてます?』
「ああ、聞いてる聞いてる」
包丁で刻む。この刻み方でいいんだよな。
『忘れてませんよね?』
「何をだ」
『今年のバレンタインですよ!』
「さて、どうかな」
『えっ』
「当日になってからのお楽しみだ」
そろそろ湯が湧いたころだ。
『ええ~! でも俺は信じてますからね! 先輩のこと!』
「信じなくていい、信じても信じなくても結果は同じだ」
俺は額の汗を拭いながら、ボウルにざらざらと入れる。
『今日の先輩なんか冷たくないですか!?』
「平常運転だ」
『ぶ~!』
「ま、楽しみに待ってるんだな」
『え、じゃあ期待しちゃいますよ!』
「勝手にしろ」
『えへへ……』
◆
次の日。
夜。
『先輩先輩!』
「何だ」
『あの……もしや今回の先輩のチョコは手作りですか!?』
「ちゃんとエプロンと帽子とマスクと手袋して作ったぞ」
『えっそれはそれでかわ……いやそういう問題ではなく! ひょっとして俺、愛されてる!?』
「そりゃまあお前、そんだけ仲間がいたら愛されてるだろ」
『違いますよ! ひょっとして先輩俺のこと好』
「さて、どうかな。……お前からのチョコも見たぞ、今回はザッハトルテか。まさかそれも手作りとか言うんじゃないだろうな」
『手作りですよ!』
「なっお前……料理の腕上がってないか!?」
『旅してると料理は必須スキルですからね~! 仲間に教えてもらってるんですよ』
「ふうん……すごいじゃないか」
『あっ褒めてます!?』
「毎日カップ麺ばかり食べていたお前がなあ……」
『それは言わない約束でしょ~!』
「ふふ……」
『も~! で先輩先輩、まだ俺のザッハトルテ食べてないならこれから二人でお互いのやつ食べません!?』
「別にいいが……」
『やったー嬉しい! さっ用意してくださいお皿とフォーク!』
「おう」
『はい』
「えっ」
俺の前に皿とフォーク、さらには淹れたての紅茶が現れる。
「なっお前」
『サプライズです!』
「こんなことできるようになったのか……」
『色々教えてもらって改良したんですよ。バレンタインにお目見えしようかなーと思って!』
「へえ……それもまた、すごいじゃないか。自分でやったのか」
『そうです! えへへ!』
「成長したなあ……」
『ドヤ!』
顔は見えないが、後輩が胸を張っている様子が目に浮かぶ。
ふふ。
俺は冷蔵庫からザッハトルテを出し、皿に盛り付ける。
『さ、食べましょ! 先輩!』
「おう」
『じゃあ!』
『「いただきます!」』
いつの間にか日常となった後輩との通話。
不在となった日々が過ぎ、存在は再び濃くなった。
こんな風にして少しずつ日常が過ぎゆくのもまあ、悪くはないと思う。
そんな話。
6/6ページ