雪と世界と「もの」と俺と(番外編)
埋める、埋める。
そんな毎日を過ごしている。
座って過ごして顔を上げるといつの間にか荷物が来ていて、それを穴の中に埋める。
荷物が来ると同時に地面に穴が空く。真っ白な地面。雪なのか、砂なのか、ずっと手に乗せていると融けるので雪なのかもしれない。触っても冷たくはない雪。
今日も座って過ごしていると荷物が現れる。
荷物が現れる瞬間というものを俺は見たことがない。気をつけて見張っていても、ふと気を抜いた瞬間に出現している。
何せ俺は集中力がないので、気をつけて見張ろうとしたってついつい他のことを考えてしまうのだ。
今日も空は青いな、とか、明日の天気は何だろうか、とか。
明日の天気のことを考えたって、どうせ毎日晴れなのだけれども。
◆
荷物を穴に落とす。どこまで続いているのかわからない、深い深い穴。
この世界の裏側があるとして、ひょっとするとそこまでも続いているのかもしれない。入ったことがないのでわからないけれど。
そんなに大きな穴があるなんて危険な仕事なんじゃないか、と思われる人もいるかもしれない。だが大丈夫だ、この穴に俺が落ちることはできない。
うっかり足を滑らせたことがあるのだが、見えない壁に阻まれて、荷物だけが下に落ちた。
面白がって実験してみたこともあるのだが、俺が穴に落ちることはできなかった。乗り出したりすることはできるのだが、いざ落ちようとすると阻まれる。
謎の穴だ。荷物も謎だが。
荷物の中身?
開けようとしたことはないが、おそらくそれも、開けられないようになっているのだと思う。
まあ、楽な日常だ。
荷物には重さがないし、スコップにも重さがないし、ふわふわしていて毎日晴れだし、座っているだけでいい。
ぼんやりと、よくわからない、形になるかどうかさえわからない思考をふわふわ回していればいい。
荷物の処理には慣れているから身体は勝手に動いてくれる。別のことを考えていても自然に処理は終わっている。
そんな毎日。
楽しいのか楽しくないのかで聞かれると、よくわからない。
そもそも俺には楽しいという感覚がいまひとつよくわかっていない。やりたいことが楽しいのか、やれることが楽しいのか、やりたくないことは楽しくないのか、やりたいことでも楽しくないことはあるのか、考えれば考えるほどわからなくなるので考えないことにして、別のことを考えている。
空が青いな。
地面が白いな。
そういえばこの世界には太陽がない。
とか、そんなことを。
いつから存在していたのかはわからない。
ずっと前からかもしれないし、ついさっきなのかもしれない。そういうことを考えるのは……楽しい、のか? 苦痛ではない、ずっと考えることはできる。それを楽しいと言うのなら楽しいのかもしれない、よくわからない。
いつからこうしているのかはわからないし、いつまでこうしているのかもわからない。
別にどうだっていいんだ、俺がどうなるかなんてことは。
そう思うことは思考停止かもしれないし、責任の放棄なのかもしれない。
だが俺は今考えているし、存在もしている。俺にとってはそのことだけが現実であるし、夢かもしれないが、毎日でもある。
きっとこれは終わらない。
終わるときが来るとしたら「春」が来たとき。
どこだかわからない、ここではない遠くの、俺じゃない誰か、荷物を送り出し続けている知らない誰かが送り出すことを必要としなくなるとき。それこそが「春」である、ということを知っている。
知っているだけ。
干渉はできない。
ここで思考を回すだけ。
どうでもいいとされた思考を。
そういう役目。
そう――だから俺は、
青空の下で生きている。
そんな毎日を過ごしている。
座って過ごして顔を上げるといつの間にか荷物が来ていて、それを穴の中に埋める。
荷物が来ると同時に地面に穴が空く。真っ白な地面。雪なのか、砂なのか、ずっと手に乗せていると融けるので雪なのかもしれない。触っても冷たくはない雪。
今日も座って過ごしていると荷物が現れる。
荷物が現れる瞬間というものを俺は見たことがない。気をつけて見張っていても、ふと気を抜いた瞬間に出現している。
何せ俺は集中力がないので、気をつけて見張ろうとしたってついつい他のことを考えてしまうのだ。
今日も空は青いな、とか、明日の天気は何だろうか、とか。
明日の天気のことを考えたって、どうせ毎日晴れなのだけれども。
◆
荷物を穴に落とす。どこまで続いているのかわからない、深い深い穴。
この世界の裏側があるとして、ひょっとするとそこまでも続いているのかもしれない。入ったことがないのでわからないけれど。
そんなに大きな穴があるなんて危険な仕事なんじゃないか、と思われる人もいるかもしれない。だが大丈夫だ、この穴に俺が落ちることはできない。
うっかり足を滑らせたことがあるのだが、見えない壁に阻まれて、荷物だけが下に落ちた。
面白がって実験してみたこともあるのだが、俺が穴に落ちることはできなかった。乗り出したりすることはできるのだが、いざ落ちようとすると阻まれる。
謎の穴だ。荷物も謎だが。
荷物の中身?
開けようとしたことはないが、おそらくそれも、開けられないようになっているのだと思う。
まあ、楽な日常だ。
荷物には重さがないし、スコップにも重さがないし、ふわふわしていて毎日晴れだし、座っているだけでいい。
ぼんやりと、よくわからない、形になるかどうかさえわからない思考をふわふわ回していればいい。
荷物の処理には慣れているから身体は勝手に動いてくれる。別のことを考えていても自然に処理は終わっている。
そんな毎日。
楽しいのか楽しくないのかで聞かれると、よくわからない。
そもそも俺には楽しいという感覚がいまひとつよくわかっていない。やりたいことが楽しいのか、やれることが楽しいのか、やりたくないことは楽しくないのか、やりたいことでも楽しくないことはあるのか、考えれば考えるほどわからなくなるので考えないことにして、別のことを考えている。
空が青いな。
地面が白いな。
そういえばこの世界には太陽がない。
とか、そんなことを。
いつから存在していたのかはわからない。
ずっと前からかもしれないし、ついさっきなのかもしれない。そういうことを考えるのは……楽しい、のか? 苦痛ではない、ずっと考えることはできる。それを楽しいと言うのなら楽しいのかもしれない、よくわからない。
いつからこうしているのかはわからないし、いつまでこうしているのかもわからない。
別にどうだっていいんだ、俺がどうなるかなんてことは。
そう思うことは思考停止かもしれないし、責任の放棄なのかもしれない。
だが俺は今考えているし、存在もしている。俺にとってはそのことだけが現実であるし、夢かもしれないが、毎日でもある。
きっとこれは終わらない。
終わるときが来るとしたら「春」が来たとき。
どこだかわからない、ここではない遠くの、俺じゃない誰か、荷物を送り出し続けている知らない誰かが送り出すことを必要としなくなるとき。それこそが「春」である、ということを知っている。
知っているだけ。
干渉はできない。
ここで思考を回すだけ。
どうでもいいとされた思考を。
そういう役目。
そう――だから俺は、
青空の下で生きている。
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