短編小説

 もうずっと、重たいものが上に載っている。
 雪だろうか。
 わからない。
 正体なんてものは。
 重たいものはずっと重たく、俺の呼吸を浅くする。
 退けようと思ったことはない、もはやそれがあることは当たり前になってしまったから。
 だが意識し始めるともう駄目だ、苦しい、耐えられない。
 こんな時代だ、きっと誰の上にもそういうものが載っているに違いない、そう思って気を紛らせようにも俺は今が苦しいのだと叫ぶ何かが止められない。
 馬鹿な心。ままならぬ心。いっそ心が消えてしまえば何も感じずに済むのだろうか。
 呼吸も苦しくならずに、苦しくなっても何も感じずに。
 それこそ馬鹿な考えだ、わかっているが苦しくて苦しくて馬鹿な思考もしてしまうだろう、わかるだろう、わからないか、知っている。
 重たいそれが概念の雪だと言うのなら俺の存在は何だろう、概念の、鎖。縛るもの。何を?
 ■を。
 わからない、わからなくていい。
 そんなことが「わかって」しまうくらいなら一生この雪の下でいい。そう思う心と、本当にわからないままでいいのか、それを明らかにしないと俺はいつまでたってもこのままなんじゃないかと思う心と、いや、何がどうなったって俺のこの状況が変わることなんかないんだと諦めを囁く心と、何が一番強いのか。
 それすらわからないのだ。
 どうだっていいと投げたその先でさえ降り積もる雪が呼吸を遮る。
 そうやってどこまでも続くのだろう。
 長い長い冬。終わらない冬。それにほとほとうんざりしても終わってくれることはなく。
 概念の雪は融けない。
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