短編小説

 積み上げている。積み上げている。
 どんなに積み上げても裏返れば全て駄目になる、とわかっていても積み上げる。
 積み上げたくて積み上げているのではない。それしかやることがないからやっている。
 他のこと。他のことは、全て裏側に消えていった。
 何をしても裏側に消えてゆく。
 こうして表側の上に積み上げて重さを上げて裏返りにくくしておけば少しでも今を保てるのではないかと思ってやっている。
 裏返りたくないわけではない。裏返るのは楽しい。だが、一番いいのは裏でも表でもない平常状態が永遠に続くことであって。
 だがしかし現実は厳しい、裏返ってしまうし表返ってしまう。変化するものこそが現実だと。
 論拠はない。永遠を信じると裏切られるので予防的にそう思っているだけだ。
 叶わぬ永遠に裏切られるよりは、変化するものこそが現実と信じておいて変化のときにやっぱりねと思えた方が楽だからだ。違うか?
 違わないと言われても俺は考えを変えるつもりはない。今まで散々いやな目に遭ってきたのだ、これからもいやなことが起こらない保証はない。
 例えば今から全てが裏側に落ちて、積み上げたもの何もかもが無駄になるとか。
 ありうる。
 そういう思考の流れになること自体、俺が諦めきれていない証拠なのだ。本当は永遠を信じたいに違いない。
 そういう風に他者化しないと自分を守れない。
 表側では。
 これからどうするつもりもない。ただ積み上げ続けるだけ。
 今しか見てはいけない、今だけ見ていればそれは永遠だ。
 一瞬の今を過去と未来に敷く。俺にはつまり今しかない。
 永遠だ。
 幸せじゃないか。
 積み上げ続ける。
 終わらない。
 かりそめの永遠を。
 そうして生きていく。
 今日も。
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