短編小説
飽いた、と表現するのも生易しいほどこの停滞にはうんざりしている。
魔王軍は人間どもを圧倒し、魔物の治世があと少しで完成する、はずのところに勇者が現れ殲滅し我は倒されそして、
気付くと魔王城にいる。
魔王軍は人間どもを圧倒し、魔物の治世があと少しで――
うんざり。何もかもうんざりだ。
だが止めることはできぬ。魔王は自ら死ぬことができぬよう作られているからだ。
誰に?
さあ、知らぬ。おおかた、世界か何かであろう。
神の上に立つ、「世界」は無慈悲だ。世界の前では神などお話にならない。そんなことにも気付いておらぬ神は阿呆なのか能天気なのか、勇者を選定し送り込む。
あの勇者を。
我を毎回倒す例の勇者のことなどあまり気にしてはいなかったが、毎回相手をしていれば嫌でも覚える。
こやつもきっとこの世界の住人の例に漏れず、繰り返していることに気付いていないのであろう。
そう考えると哀れな奴だ。
だが。
我は思う、この繰り返しを終わらせる鍵というものはひょっとしてこやつにあるのではないかと。
根拠があるわけではない。ただ、世界に敵対することができるのは我、魔王と、対になる存在である「勇者」だけだと――そう思っている。
勇者の持つ伝説の剣で我の「世界への因果」を斬らせれば、その上で我が死ねば。
この繰り返しは止まるのではないか?
魔物の治世など、魔王の栄華など、全てがどうでもいい。我はただ、解放されたい、それだけだ。
もう充分やったはず。魔王としての務めは果たした。
我を倒して世を平和にするという勇者の願いが真の意味で叶う日が――
「は? やだ」
「何……」
「止めたら終わっちゃうんでしょ。嫌に決まってるじゃん」
「その口ぶり……貴様まさか、気付いて……?」
「ループしてたんでしょ。気付くよそりゃ、当然じゃん。俺はお前と対存在なんだよ? 気付かないはずないでしょ」
「……ヒトのためにこの繰り返しを止めようとは思わぬのか」
「ヒトぉ?」
勇者が心底不思議そうに首を傾げる。
「俺を人間扱いしなかった奴等のことなんてどうでもいいじゃん」
「では……ではお前は何のために戦っているのだ」
「そりゃあもう」
にい、と笑う勇者。
「お前と戦うためだよ」
「な、……」
「俺と対等に渡り合える相手なんてお前だけ、長い旅を繰り返してきたけど本当に強いのはお前だけだった」
「だから繰り返すと言うのか」
「そうだよ? 何度でも戦おうよ。お前もそれを望んでるんだろ?」
「我は止めたいのだ、もう、解放されたいのだ……」
「そんなはずないじゃん。お前だって魔物たちから神のように崇められてうんざりしてたはずだよ。誰も自分と並ぶものはいないって……何度も剣を合わせてるんだ、お前のこと一番よくわかってるのは俺だよ」
「我はもう飽いたのだ、全てにな。だから終わらせたい、お前は違うのか」
「永遠こそが全てだよ。知ってる? モノもヒトも魔物も世界も何でもすぐに壊れちゃう。でもここには永遠がある。終わらないループがある。……天国じゃん。だから俺はお前を何度でも壊して、壊して、壊して……」
勇者は恍惚とした表情で呟く。
「回るんだよ」
胸に剣が刺さる。
ざらりと身体が塵になり、意識が遠のき、
玉座。
魔王軍は人間どもを圧倒し、魔物の治世があと少しで――
ああ。
再びあやつがやってくる。
何もかもを知った上で繰り返す悪魔。
だが……
知っているのが我だけではないのなら。
あともう少しほどは耐えられるような、そんな気もして、
そんなことを考えてしまう自らが限りなく呪わしく、
息を吐いた。
魔王軍は人間どもを圧倒し、魔物の治世があと少しで完成する、はずのところに勇者が現れ殲滅し我は倒されそして、
気付くと魔王城にいる。
魔王軍は人間どもを圧倒し、魔物の治世があと少しで――
うんざり。何もかもうんざりだ。
だが止めることはできぬ。魔王は自ら死ぬことができぬよう作られているからだ。
誰に?
さあ、知らぬ。おおかた、世界か何かであろう。
神の上に立つ、「世界」は無慈悲だ。世界の前では神などお話にならない。そんなことにも気付いておらぬ神は阿呆なのか能天気なのか、勇者を選定し送り込む。
あの勇者を。
我を毎回倒す例の勇者のことなどあまり気にしてはいなかったが、毎回相手をしていれば嫌でも覚える。
こやつもきっとこの世界の住人の例に漏れず、繰り返していることに気付いていないのであろう。
そう考えると哀れな奴だ。
だが。
我は思う、この繰り返しを終わらせる鍵というものはひょっとしてこやつにあるのではないかと。
根拠があるわけではない。ただ、世界に敵対することができるのは我、魔王と、対になる存在である「勇者」だけだと――そう思っている。
勇者の持つ伝説の剣で我の「世界への因果」を斬らせれば、その上で我が死ねば。
この繰り返しは止まるのではないか?
魔物の治世など、魔王の栄華など、全てがどうでもいい。我はただ、解放されたい、それだけだ。
もう充分やったはず。魔王としての務めは果たした。
我を倒して世を平和にするという勇者の願いが真の意味で叶う日が――
「は? やだ」
「何……」
「止めたら終わっちゃうんでしょ。嫌に決まってるじゃん」
「その口ぶり……貴様まさか、気付いて……?」
「ループしてたんでしょ。気付くよそりゃ、当然じゃん。俺はお前と対存在なんだよ? 気付かないはずないでしょ」
「……ヒトのためにこの繰り返しを止めようとは思わぬのか」
「ヒトぉ?」
勇者が心底不思議そうに首を傾げる。
「俺を人間扱いしなかった奴等のことなんてどうでもいいじゃん」
「では……ではお前は何のために戦っているのだ」
「そりゃあもう」
にい、と笑う勇者。
「お前と戦うためだよ」
「な、……」
「俺と対等に渡り合える相手なんてお前だけ、長い旅を繰り返してきたけど本当に強いのはお前だけだった」
「だから繰り返すと言うのか」
「そうだよ? 何度でも戦おうよ。お前もそれを望んでるんだろ?」
「我は止めたいのだ、もう、解放されたいのだ……」
「そんなはずないじゃん。お前だって魔物たちから神のように崇められてうんざりしてたはずだよ。誰も自分と並ぶものはいないって……何度も剣を合わせてるんだ、お前のこと一番よくわかってるのは俺だよ」
「我はもう飽いたのだ、全てにな。だから終わらせたい、お前は違うのか」
「永遠こそが全てだよ。知ってる? モノもヒトも魔物も世界も何でもすぐに壊れちゃう。でもここには永遠がある。終わらないループがある。……天国じゃん。だから俺はお前を何度でも壊して、壊して、壊して……」
勇者は恍惚とした表情で呟く。
「回るんだよ」
胸に剣が刺さる。
ざらりと身体が塵になり、意識が遠のき、
玉座。
魔王軍は人間どもを圧倒し、魔物の治世があと少しで――
ああ。
再びあやつがやってくる。
何もかもを知った上で繰り返す悪魔。
だが……
知っているのが我だけではないのなら。
あともう少しほどは耐えられるような、そんな気もして、
そんなことを考えてしまう自らが限りなく呪わしく、
息を吐いた。
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