短編小説

 裏側の裏側の裏側をめくる。
 そんなことはできるはずがない。裏側をめくったとしてもその裏側を探すあいだに裏側は元に戻ってしまう。
 そういうものだ。
 何がそういうものなのかは知らないが、そういうもの。
 そうやって生きてきた。
 夢の中で裏側に想いを馳せることはできない。
 夢の中では思考が鈍る。「表面」だけしか見られなくなる。疲れたときの思考と似ている。
 だからこうしてたくさんの羊がやってきてそれに押し流されていても、どうしてこんなことになっているのかとかこれは夢だとかそういうことは考えられないもので。
 それを考えられているということはこれが夢ではない、またはたまたま俺の頭がとても冴えていて夢の中なのに裏側を認識できている、とかそういう。
 まあそんなことはどうでもいいんだ。
 夢なら早く覚めてほしいし夢じゃないならまあ、どうにもできないので放置するしかない。
 幸い羊に押し流されていても痛かったりつらかったりするわけではないしこのままでもいいと言えばいいのだが、いかんせん状況がよくわからないのは少し困る。
 しかし羊はふわふわで、そのふわふわに押し流されているとぼんやり眠くなってきて。
 夢の中で寝るのはどうなんだと思うが眠いものは仕方がない。
 心地よい振動の中、俺は目を閉じた。
 おやすみ。
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