短編小説

 空が高く晴れた秋の日は不思議と蝶が来ないんだよ、とこぼした友人のことを思い出す。
 理由を聞くのは忘れてしまった。そのときは蝶のことなんてどうでもいいと思っていたから。
 その友人はどこか遠くに行ったまま帰らない。死んだなんて噂も流れてくるけど本当かどうかはわからない。
 生きているのか死んでいるのか、実際に確認するまでわからない。それはつまり、限りなく遠くでいなくなられたりしたら永遠にわからないということになる。
 人間はそういう生き物なのか、それとも俺がそうなだけなのか、わからないし特に興味もないけど。
 秋晴れの日、あの友人が言っていたような日。
 蝶は来なくてため息をつく。
 自分で会いに行くなんてナンセンスだし、今日はこのまま蝶は来ないのだろう。
 でもいいんだ。
 蝶はそんなに好きじゃないし。

(10月拍手・『秋晴れ』)
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