短編小説

『おのれ魔王! 人々の運命を弄ぶおぞましき悪魔!』
 幾度となくかけられてきた罵りの言葉がふと蘇り、僕はそっとため息をつく。
「好きでやってるんじゃないんだけどなあ」
「だったらやめようぜ」
「え?」
「世界なんかに使われてるのは癪だろ?」
「きみは……」
「勇者だ。囚われの姫を助けにくるのは勇者と相場が決まってる」
「僕、魔王なんですけど」
「知ってる。ノリだよノリ。なあ魔王、俺と一緒に来ないか。その方が絶対に楽しい」
「……僕がここを離れたって第二第三の魔王が現れる」
「すぐじゃないだろ。それまでにぶっ壊しちまえばいいんだ」
「何を?」
「世界の理をだよ」
「簡単に言うねえ」
「俺は勇者だぜ。勇者に不可能はない。俺の手を取れ、魔王」
「はー……」
 僕は空を仰ぐ。普通こういうのって逆じゃないか?
 でも。
 諦めきって役割をこなしていたこんな生活に、一度は反抗してみてもいいかもしれないと。
「……」
「さすが魔王。それでこそだぜ」
 僕は勇者の手を取った。


(9月拍手『反抗』)
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