短編小説
「うさぎ……俺のところにうさぎは来なかった……なぜかわかるか? 『ここは月じゃねえ』それだけのことさ……だから兄弟、ここは月じゃねえ。臼は余所で探しな……」
「なんで!? なんで臼がないんですか!? 聞いてないそんなの、そんなの…餅つきができない!」
「だから兄弟ここは月じゃねえって」
「なんでですか! 僕は! そんなの! 許さない!!!!」
「出て行っちまった」
「アニキ、追わねえんで?」
「去る兎は追わず、東の地方のコトワザさ…」
◆
「うっうっ……この星は……うさぎに冷たいんだ……僕は……僕は……」
「よう、ウサ公」
「あなたはさっきの……店主さん!?」
「お前、うさぎだったのか」
「ち、違います!」
「自分で言ってたじゃねえか」
「それはその……」
「大丈夫、取って食やしねえよ」
「よかった……」
「うさぎなんだな」
「あっ」
「この星で餅つきしてえってか? 悪いこと言わんぜ、やめときな」
「でも僕はうさぎで……」
「だからこそ、だよ」
「……?」
「お前さんも分かってるだろ、この星じゃうさぎは歓迎されねえ。昔……あったのさ、ひと騒動。この星はそれから月との国交を断った」
「何が、あったんですか」
「それは俺の口から言うことじゃねえ、母星に帰ってじいちゃんに訊きな」
「そんな、それじゃ僕がこの星に来た意味って……」
「お前さん、誰にも言わずに飛び出してきたんだろ?」
「ど、どうして」
「そんな顔してたぜ。……帰ってやりな」
「でも……」
「帰るんだ。もうすぐサツが回ってくる……俺だってお前さんをいつまでも隠してやれねえよ」
「……おじさん……」
「『お兄さん』だ」
「お兄さん……」
「早く帰りな」
「……わかりました。僕……僕……また……」
「もう来るなよ」
「また!」
◆
「……聞かねえヤツだったな」
「アニキの若い頃みてえですね!」
「……言うな」
「気に入っちゃったんすか?」
「違えよ」
「案外これが国交正常化のきっかけとかになっちゃったりして、みたいな」
「ないない」
月はまだ、遠い。
「なんで!? なんで臼がないんですか!? 聞いてないそんなの、そんなの…餅つきができない!」
「だから兄弟ここは月じゃねえって」
「なんでですか! 僕は! そんなの! 許さない!!!!」
「出て行っちまった」
「アニキ、追わねえんで?」
「去る兎は追わず、東の地方のコトワザさ…」
◆
「うっうっ……この星は……うさぎに冷たいんだ……僕は……僕は……」
「よう、ウサ公」
「あなたはさっきの……店主さん!?」
「お前、うさぎだったのか」
「ち、違います!」
「自分で言ってたじゃねえか」
「それはその……」
「大丈夫、取って食やしねえよ」
「よかった……」
「うさぎなんだな」
「あっ」
「この星で餅つきしてえってか? 悪いこと言わんぜ、やめときな」
「でも僕はうさぎで……」
「だからこそ、だよ」
「……?」
「お前さんも分かってるだろ、この星じゃうさぎは歓迎されねえ。昔……あったのさ、ひと騒動。この星はそれから月との国交を断った」
「何が、あったんですか」
「それは俺の口から言うことじゃねえ、母星に帰ってじいちゃんに訊きな」
「そんな、それじゃ僕がこの星に来た意味って……」
「お前さん、誰にも言わずに飛び出してきたんだろ?」
「ど、どうして」
「そんな顔してたぜ。……帰ってやりな」
「でも……」
「帰るんだ。もうすぐサツが回ってくる……俺だってお前さんをいつまでも隠してやれねえよ」
「……おじさん……」
「『お兄さん』だ」
「お兄さん……」
「早く帰りな」
「……わかりました。僕……僕……また……」
「もう来るなよ」
「また!」
◆
「……聞かねえヤツだったな」
「アニキの若い頃みてえですね!」
「……言うな」
「気に入っちゃったんすか?」
「違えよ」
「案外これが国交正常化のきっかけとかになっちゃったりして、みたいな」
「ないない」
月はまだ、遠い。
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