短編小説

 まやかしを探しているのだが、見つからない。
「まやかし、まやかし、まやかし」
 ここにもない、あそこにもない、そこにもない。
 まやかしを探す者はまやかしには出会えない、それは蟹と同じ。
 だがまやかしを探している状態そのものがまやかしであると仮定すれば、まやかしに出会うことはできる。
 それならば、
「まやかし、」
 いつか蝶が来る。
 全てを飲み込む虚無が。
「まやかし……」
 誰が幸せなのか、何が幸せなのか、俺は幸せなのか、奴らは幸せなのか。
 増えていく。まやかしが増えていく。
 そうして俺は出会うのだ。

(8月拍手『まやかし探し』)
32/190ページ
    スキ