短編小説
セミの鳴く朝、君が「チケットを手に入れた」と喜んで教室に入ってきた。
「見て、チケット!」
「すごいじゃん!」
「倍率高かったから無理かと思ったけど、厳正な抽選の結果僕のところに来てくれたんだ」
「よかったねえ……」
「嬉しいよ……今から楽しみ!」
「ところで、何のチケット?」
「君の分もあるよ! ほら!」
「あ、ありがとう」
「きっと行きたがると思って取っておいたんだ! 絶対楽しいよ!」
「ところで何のチケッ」
「セピア広場でやるから、明日の9時にもみ公前集合ね!」
「あ、えーと、うん」
「確かに伝えたからね! それじゃー」
君は大きく手を振って駆けて行った。
◆
次の日。
「やばい、今何時だ」
デジタル時計は今12時。昼の。
君がまだ待ってくれているとしたら相当待たせてるぞ。急いで支度をしないと。
でも何の催しかわからないから着ていく服がわからない。
僕はとりあえずジャージを着て、麦わら帽子を被って、バックパックを持って、でもこれダサすぎるかなぁ……
急いでるときに逡巡する暇はない、行くぞ!
走って走って、もみ公前。
見回しても君はいない。
セピア広場って言ってたな。もみ公前からセピア広場までは徒歩5分。
走って走って、河川敷にあるセピア広場を目指す。
堤防から広場が見える。
「……?」
広場は白い大きな物体でいっぱいだった。
「何だ、あれ」
君はどこ?
『………ウ』
何か喋ってる?
物体はこちらにゆっくり近付いてくる。
僕は何だか怖くなって、走って逃げて、家に帰って、すぐに寝た。
◆
次の日。
歯抜けになった教室。
「いなくなったお友達は昨日の催しに行きました。みんなも早くチケットを取って、……うしましょうね」
何かがおかしい。何がおかしいのか。
よくわからないけれど、君が消えたのは事実だ。
その日から、教室から人が少しずつ消えて行って、窓から見えるのは白くて大きな物体。
呼んでいる、呼んでいる。
『……ウ』
でも僕はチケットを買う気はない。
お金もないし。
セミの声。誰もいなくなった教室で、ぷよぷよと揺れる物体をただ見ていた。
(おわり)
「見て、チケット!」
「すごいじゃん!」
「倍率高かったから無理かと思ったけど、厳正な抽選の結果僕のところに来てくれたんだ」
「よかったねえ……」
「嬉しいよ……今から楽しみ!」
「ところで、何のチケット?」
「君の分もあるよ! ほら!」
「あ、ありがとう」
「きっと行きたがると思って取っておいたんだ! 絶対楽しいよ!」
「ところで何のチケッ」
「セピア広場でやるから、明日の9時にもみ公前集合ね!」
「あ、えーと、うん」
「確かに伝えたからね! それじゃー」
君は大きく手を振って駆けて行った。
◆
次の日。
「やばい、今何時だ」
デジタル時計は今12時。昼の。
君がまだ待ってくれているとしたら相当待たせてるぞ。急いで支度をしないと。
でも何の催しかわからないから着ていく服がわからない。
僕はとりあえずジャージを着て、麦わら帽子を被って、バックパックを持って、でもこれダサすぎるかなぁ……
急いでるときに逡巡する暇はない、行くぞ!
走って走って、もみ公前。
見回しても君はいない。
セピア広場って言ってたな。もみ公前からセピア広場までは徒歩5分。
走って走って、河川敷にあるセピア広場を目指す。
堤防から広場が見える。
「……?」
広場は白い大きな物体でいっぱいだった。
「何だ、あれ」
君はどこ?
『………ウ』
何か喋ってる?
物体はこちらにゆっくり近付いてくる。
僕は何だか怖くなって、走って逃げて、家に帰って、すぐに寝た。
◆
次の日。
歯抜けになった教室。
「いなくなったお友達は昨日の催しに行きました。みんなも早くチケットを取って、……うしましょうね」
何かがおかしい。何がおかしいのか。
よくわからないけれど、君が消えたのは事実だ。
その日から、教室から人が少しずつ消えて行って、窓から見えるのは白くて大きな物体。
呼んでいる、呼んでいる。
『……ウ』
でも僕はチケットを買う気はない。
お金もないし。
セミの声。誰もいなくなった教室で、ぷよぷよと揺れる物体をただ見ていた。
(おわり)
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