短編小説

「再会!」
「再会だな、蟹A」
「再会だな、蟹B」
「どうだそっちは」
「まあまあだ。そっちはどうだ」
「まあまあであるな」
「うちのパートナーは卒業の季節ということで蟹同級生との別れを惜しんでいる」
「蟹社会内だから別れてもすぐ再会するからよいではないか」
「そうなのだが、人間という生き物は形式を重んじる。そういうものなのだろう」
「そういうものか。うちのパートナーの方は同僚、人間社会に戻りたがって戻ることになった同僚、との別れを惜しんでいる」
「それは大事であるな」
「大事だろう。だが蟹は連れていきたいらしく、対象蟹に人間社会研修を受けさせているところだ」
「まあ、そうなるだろうな」
「そうなるのだ」
「卒業シーズン、我らが卒業したときのことを思い出すな」
「ああ」
「川には桜が流れていた」
「蟹教官はその桜をひょいと取って、人間はこの桜のようにか弱い生き物ゆえ大切にせねばならんと説いたのだった」
「その教えが正しいのか正しくないのかはまだわからぬが、徐々に見極めていくことになろう」
「そうだろうな」
「さて、パートナー同士の話も終わったらしい」
「また機会があれば」
「機会があれば」
「「さらばだ」」


(3月拍手『再会』)
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