短編小説

 踊る。踊る。
「今日は何もない日! テスト前だけど何もない日!」
 部屋の中で踊る。わき目もふらずに踊る。それが俺のストレス発散手段なのだ。
 踊る。踊る。あの後悔もなかったことに。あの失言もなかったことに。あの目もなかったことに。何もかもなかったことに。
 なかったことにする。
 踊ることでエネルギーを外部化し、それ以上思考が回らないようにする。
 そのつもりなのだが、踊れば踊るほど水面下の思考は活性化してぐるぐるぐるぐる、
『失敗だった』
『嫌われた』
『愛想を尽かされた』
 だけど踊りのいいところはそれら全てに超スピードで「まあいいか!」を突きつけられることだ。
『失敗だった』まあいいか!
『嫌われた』まあいいか!
『愛想を尽かされた』まあいいか!
 思考は回るが変に振り切れるので、開き直るには良い手段なのだろう。
 後悔していても踊れば良い。
 課題を溜めていても踊れば良い。
 テスト前でも踊れば良い。
 踊れば見切りをつけられて、動きだすきっかけをつかむことができる。
 だが、
「疲れた」
 踊ると疲れる。
「一時間くらい寝てもいいか」
 徹夜してどうしようもなくなってからの踊りだったので、今寝てしまうと
「おやすみ~」

..
...
『PiPiPiPi!』
「うおお何だうおお」
 俺は跳び起きた。時間は13時。
「テスト終わった!」
 そう、テストは終わった。
「終わった……」
 俺の成績が。
 そんなときは、
「踊ろう!」
『テストを休んでしまった』まあいいか!
『単位を落としてしまう』まあいいか!
『今年の単位足りてたっけ』まあいいか!
『留年の危機』なんとかなる!
「なんとかなる!」
 そして俺は踊った。


(おわり)
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