短編小説
「サンタジャパン支部へようこそ。どんなご用ですか?」
「サンタを『選びたい』んです」
「蟹?」
~『サンタになりたかった蟹』~
「サンタを『選ぶ』ってあなたサンタが救いを必要としてると思ってるんですか?」
「毎年忙しいでしょ? 休みもないでしょ? そんなヒトには蟹ですよやっぱり」
「サンタは夏はちゃんとバカンスしてますよ、ワイハとかばりばり行きますし」
「えっ?」
「まあ南半球では冬ですけどね」
「えっ」
「南半球のサンタはサーフボードに乗って来るほどです」
「そうなんですか?」
「ええ、あとコーラ片手に」
「ほんとですか?」
「冗談です」
「よくわからない冗談やめてください」
「すいません」
「でも、サンタだってストレスあるでしょ? プレゼントが何かわからないとか」
「そこは統合思念体パワーでなんとかなります」
「統合思念体って何ですか」
「サンタの上部組織です」
「えっ」
「思念体の尖兵という側面もあるのですよ、サンタには」
「見ず知らずの僕にそこまで喋っちゃって大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ、蟹は人間じゃないので」
「なんか仲間外れにされてるみたいで寂しいなあ……」
「ご勝手に」
「冷たい!」
「冬ですので」
「傷つくなあ……でもでも、ほんとにサンタにストレスないの!? あるでしょ!?」
「サンタは夢の存在なので仕事にストレスとかはないのです」
「夢の存在って何!?」
「夢を与える存在ということです。仮にストレスがあったとしてもそれを表に出さないのがプロというもの」
「やっぱストレスあるんじゃないの!?」
「ないですって、末端の我々にはあるかもしれませんが、本人にストレスはないはずです。あったら代替わりさせられますから」
「代替わり!?」
「そうですよ」
「処分されちゃうんだ……」
「違いますよ。ワイハとか母星とかそのサンタお気に入りの場所で平和に余生を送ってもらうんです」
「母星って何ですか?」
「母星ですよ」
「地球じゃないんですか?」
「ご存じありませんでした? サンタ、異星人なんですよ」
「嘘だぁ」
「嘘じゃないですよ。だいぶ前にニュースとかでも流れてたじゃないですか。今は当たり前すぎて誰も言わなくなりましたけど」
「嘘だぁ~!」
「ほんとですよ」
受付の人が蟹に新聞の切り抜きを見せる。『サンタは異星人!? クリスマスイブの衝撃!』と書かれている。
「受付さん、今日エイプリルフールじゃないですよ?」
「クリスマスイブですね」
「サンタが、異星人?」
「そうです」
「じゃあ今まで僕がずっと憧れてきた、サンタを『選んで』蟹サンタになるって野望は」
「ないです。サンタはヒトじゃないので」
「ないのか……」
「まあそう気を落とさずに」
「気を落としますよぉ、だって今までずっと夢見てきたのにぃ……」
「まあまあ。サンタ協会は善意のボランティアを日々募集しておりますから」
「え」
「あなたもサンタの一員になるのです。ここまで聞いてしまったからには人外であろうと部外者ではいられない。いや、人外だからこそ都合がいいともいえる」
「待って」
「拒否権はありませんよ。嫌だと言っても無理矢理加入させますから」
「強引! でも……僕はサンタになれるんですか?」
「もちろん。いつもにこにこサンタ協会の扉を見つけられたのはあなたにサンタの素質があるからでもありますし」
「えっ聞いてない……聞いてないけど、」
蟹は言葉を切って天井を見上げた。
「うれし~~~~~!」
(おわり)
「サンタを『選びたい』んです」
「蟹?」
~『サンタになりたかった蟹』~
「サンタを『選ぶ』ってあなたサンタが救いを必要としてると思ってるんですか?」
「毎年忙しいでしょ? 休みもないでしょ? そんなヒトには蟹ですよやっぱり」
「サンタは夏はちゃんとバカンスしてますよ、ワイハとかばりばり行きますし」
「えっ?」
「まあ南半球では冬ですけどね」
「えっ」
「南半球のサンタはサーフボードに乗って来るほどです」
「そうなんですか?」
「ええ、あとコーラ片手に」
「ほんとですか?」
「冗談です」
「よくわからない冗談やめてください」
「すいません」
「でも、サンタだってストレスあるでしょ? プレゼントが何かわからないとか」
「そこは統合思念体パワーでなんとかなります」
「統合思念体って何ですか」
「サンタの上部組織です」
「えっ」
「思念体の尖兵という側面もあるのですよ、サンタには」
「見ず知らずの僕にそこまで喋っちゃって大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ、蟹は人間じゃないので」
「なんか仲間外れにされてるみたいで寂しいなあ……」
「ご勝手に」
「冷たい!」
「冬ですので」
「傷つくなあ……でもでも、ほんとにサンタにストレスないの!? あるでしょ!?」
「サンタは夢の存在なので仕事にストレスとかはないのです」
「夢の存在って何!?」
「夢を与える存在ということです。仮にストレスがあったとしてもそれを表に出さないのがプロというもの」
「やっぱストレスあるんじゃないの!?」
「ないですって、末端の我々にはあるかもしれませんが、本人にストレスはないはずです。あったら代替わりさせられますから」
「代替わり!?」
「そうですよ」
「処分されちゃうんだ……」
「違いますよ。ワイハとか母星とかそのサンタお気に入りの場所で平和に余生を送ってもらうんです」
「母星って何ですか?」
「母星ですよ」
「地球じゃないんですか?」
「ご存じありませんでした? サンタ、異星人なんですよ」
「嘘だぁ」
「嘘じゃないですよ。だいぶ前にニュースとかでも流れてたじゃないですか。今は当たり前すぎて誰も言わなくなりましたけど」
「嘘だぁ~!」
「ほんとですよ」
受付の人が蟹に新聞の切り抜きを見せる。『サンタは異星人!? クリスマスイブの衝撃!』と書かれている。
「受付さん、今日エイプリルフールじゃないですよ?」
「クリスマスイブですね」
「サンタが、異星人?」
「そうです」
「じゃあ今まで僕がずっと憧れてきた、サンタを『選んで』蟹サンタになるって野望は」
「ないです。サンタはヒトじゃないので」
「ないのか……」
「まあそう気を落とさずに」
「気を落としますよぉ、だって今までずっと夢見てきたのにぃ……」
「まあまあ。サンタ協会は善意のボランティアを日々募集しておりますから」
「え」
「あなたもサンタの一員になるのです。ここまで聞いてしまったからには人外であろうと部外者ではいられない。いや、人外だからこそ都合がいいともいえる」
「待って」
「拒否権はありませんよ。嫌だと言っても無理矢理加入させますから」
「強引! でも……僕はサンタになれるんですか?」
「もちろん。いつもにこにこサンタ協会の扉を見つけられたのはあなたにサンタの素質があるからでもありますし」
「えっ聞いてない……聞いてないけど、」
蟹は言葉を切って天井を見上げた。
「うれし~~~~~!」
(おわり)
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