短編小説

 何度思い返しても何度回しても何度振り返っても同じ。
『元気出して』
『私がいるよ』
『今日の空は綺麗だねえ』
 いつでも同じ。同じ内容ばかり再生される。
 春も夏も秋も冬も判子を押したように同じもの。
『花びら見っけ!』
『流れ星!』
『かまきりがいる』
『空気が澄んでるねえ』
 同じ、同じ、同じ。
『どうしたの? 元気ないね』
『悲しそうだね』
『話を聞くよ』
『心配ないよ、大丈夫』
 そんな記憶などなかったことを。
 そんな友人などいなかったことを。
 振り返る度に思い出す。
『ずっと一緒にいるからね』
 空虚でできた平穏を。

(11月拍手『イマジナリィは平穏』)
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