短編小説

「あったぜ、流れ星!」
「ほんとだな」
「あそこにも!」
「ああ」
「願い事いくら言ってもまだ言えるとか天国じゃね!?」
「はは、そうだな」
 幼馴染は流れ星が好きだ。特に星が好きだとかそういうわけじゃなく、単に願い事を言いたいから好きってことらしい。現金な奴だ。
「おお、また流れた!」
 あまりにも喜ぶものだから何を願っているのかこちらも気になって訊くのだが、恥ずかしがって全く教えてくれない。
 食い意地張ってるし、おいしいお菓子がたくさん食べられますようにとか蟹鍋食べたいですとかだろうか。
 答えはこいつと星しか知らない。
「見た今の!? 結構長かった!」
「ああ、」
 幼馴染に付き合って空を見上げるようになった俺だが、実は目がとても悪く、星が流れてもそんな気がするだけで確信を持てず流れたか? いや……などと悩みつつ思考をぐるぐる回すことしかできない。幼馴染が今流れたよなどと言って目をやってみてもやっぱり見えない。
 見えないということを正直に言ってもよかったのだが、あまりにも喜ぶ幼馴染に言いそびれてからだいぶ、何年も経ってしまった。嬉しそうに俺に報告してくる幼馴染を見、星を見上げるふりをしながら、チカチカする目を瞬かせる。
「また流れた~!」
 テンションが高い幼馴染。対して俺の気持ちはささくれた罪悪感と、後ろめたいのに相手からは手放しで信じられていることへの重み。
 なんでも言い合える幼馴染、のはずだった。少なくとも向こうはそのように振る舞ってくれている。
 こいつは今もその嬉しさを共有できていると思っているんだ。信じているんだ。でも俺は……今になってから実は違いました、なんて言えるはずがない。
 関係性なんて些細なきっかけで壊れてしまう。一つ嘘を吐くだけでこの関係性が保てるなら罪悪感が重くても嘘を吐いた方がいいに決まっている。
 偽りを続けて続けて。こんな流星群の時期はいつも、ぐるぐるぐるぐる罪悪感を持て余す。
「大量だなあ、今日も来てよかった。付き合ってくれてありがとな」
「……ああ。ところで何を願ったんだ?」
「秘密って言ってるだろ~秘密だよ」
「少しは教えてくれてもいいと思うんだが……」
「いや……その……いや、やっぱり秘密」
「む」
「だってさあ……」



 言ったらお前怒るじゃん。
 俺のことを考えているお前。
 罪悪感を持て余してぐるぐるしてどうしようもなくなってるお前。
 そんな関係性が愛しくて、手放し難くて、ずっとこのまま続けばいいと思っていること。
 ばれたら怒るじゃん。
 だから俺はお願いするんだ。
 ずっとこのままいれますようにって。

(10月拍手『流れ星』)
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