短編小説
炎の剣と水の剣を持つ剣士たちが戦うという。
地元は反対運動を起こしたがふらふらあちこち旅して回る剣士たちとすれ違い接触できず当日になった。
「ここで会ったが百年目、炎の剣など片腹痛い」
「甘く見るなよ水の剣士。炎は水を蒸発させる、片手で捻ってやるわ」
にらみ合い挑発し合う剣士たち。
「剣士コンビなんであんな悪役みたいなしゃべり方してんの?」
「地元的には悪役だからじゃない?」
「なんで街の広場でやるかなあ。こういうのってどっかの荒野とかでやるもんじゃないの」
「ほんとほんと、敷石割れたり像壊れたら直すのにも費用かかるじゃんね」
決闘の舞台、この街の広場には、街のシンボル「はしゃぎ回る王子の像」がある。王子の像を見るとなんだこの王子……という気持ちになって煮詰まっていた考えから距離を置けたり、落ち込んでいた気持ちが少しましになったりと何だかんだ役立つので、街の人たちからは愛されていた。
その王子の像が壊されては困るというので決闘前日に移動させる試みがなされたが、王子の像がはしゃぎすぎてバランスが取れず移動させることができなかったため、一応ということで布でぐるぐる巻きにしている状態だ。
「王子大丈夫かなあ……」
「布で巻かれててもはしゃいでるのかな……」
「壊れてもはしゃぐっていうのはちょっと悲しみかき立てるから壊れないといいんだけど……」
「水の剣など邪道! そもそもどうやって物を切るのだ!」
「貴様、うぉーたーかったーを知らぬか! 無知なり!」
「うぉーたーかったーなどこの世界にはないだろう! メタ発言もほどほどにするのだな!」
「ぐぬぬ……炎の剣とて形が不安定であるし、少し風が吹けば刀身が飛んでいくのではないか!? 信用できぬ剣を振るい続ける貴様のメンタルなど豆腐を杖にして立ち続けるが如し!」
「炎の剣は不思議パワーで風が吹いてもビジュアル的に美しく揺らめくのみで不動! たいまつとは違うのだよたいまつとは!」
「あいつたいまつディスってんぞ」
「たいまつ役に立つのにな。森とか洞窟とかたいまつないと無理じゃん」
「ちょっと力があるからって調子乗ってるよな」
「聴衆の声を聞くがいい、炎の剣は人気もない! やはり水の剣こそが志向!」
「ぐ……では逆に訊くが水の剣とてふにゃふにゃで自立することすら難しいのではないか!?」
「フハハ、水の剣も不思議パワーでしっかりと刀身を保っているのだ! うぉーたーパワーで堅い岩すら切断する、石工も大喜び!」
「剣なんかで石斬って大丈夫なのか?」
「切り口雑そう」
「石工も困るだろ」
「聴衆の声を聞くがいい、水の剣の人気もないぞ! やはり炎の剣こそが素晴らしい!」
「どっちも嫌だな……」
「この茶番いつ終わるの?」
「戦いやめて弁論大会にしてくれたら広場も無事で済むじゃんね」
「ほんとそれ。戦いなんて不毛」
「「ええい黙るのだ愚民ども!」」
『僕の臣民たちを愚民だなんて言うのはいただけないなあ』
「何?」
「臣民だと?」
あたりを見回す剣士二人。
広場中央にある布でぐるぐる巻きにされた物体ががたがたと揺れ、揺れがだんだん大きくなり、眩しい光とともに布がはじけ飛ぶ。
『王子降臨! とうっ!』
「はしゃぎ回る王子像」が剣士二人の間に降り立った。
「な……化け物か!? こしゃくなこの剣で切り捨ててやるわ!」
「この街にモンスターがいたとはな……首級を上げギルドに売り飛ばしてくれる!」
『遅いね』
「何っ」
「我らの剣が!」
炎の剣と水の剣を持った王子像が剣士たちから離れたところに立つ。
『街で暴れてはいけない。常識だろ?』
「我らは剣士! 剣士同士の真剣勝負は場所を選ばぬ!」
「その通り、真剣勝負の尊さはいかなる物事よりも優先される!」
『いかんいかんそれは目が曇ってるよ。反省して出直したまえ』
王子像は二本の剣を布でまとめ、聴衆に向かって放り投げた。
「キャッチ! これはこちらで預からせてもらう!」
剣を受け止めそう言ったのは警備隊長。
「剣士どのら、我々には我々の暮らしがありまする。それを勝手に決闘だ真剣勝負だなどと言って荒らされてはたまったものではありませぬ」
『村長もこう言ってるし、ひとまず引き下がったら?』
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
『っていうかなんでもない街の像の僕に負けてるって剣士としてどうなの? 修行し直した方がいいんじゃない? 僕、炎剣取扱1級と水剣取扱1級持ってるんだけど僕でよければ付き合うよ』
「なんと」
「二言はないな?」
『手の平返し早っ。その代わり、街のことを手伝ってね』
「「任された」」
「なんか丸く収まったな」
「問題起きなくてよかった」
「広場も像も無事だったしな」
「っていうか王子変な資格持ってたのな」
「なんか像になる前は冒険者してたって聞いたけど」
「あいつマジで妙な像だな……」
「でも何だかんだで和むしあいつらも色々手伝ってくれるし」
「悪くはないな」
「うむ」
そして街には警備隊兼村役場職員兼なんでも雑用係が二人増え、早朝に体操する住民たちに混じって王子像と二人が棒きれを振り回す光景が見られるようになったという。
めでたし、めでたし。
地元は反対運動を起こしたがふらふらあちこち旅して回る剣士たちとすれ違い接触できず当日になった。
「ここで会ったが百年目、炎の剣など片腹痛い」
「甘く見るなよ水の剣士。炎は水を蒸発させる、片手で捻ってやるわ」
にらみ合い挑発し合う剣士たち。
「剣士コンビなんであんな悪役みたいなしゃべり方してんの?」
「地元的には悪役だからじゃない?」
「なんで街の広場でやるかなあ。こういうのってどっかの荒野とかでやるもんじゃないの」
「ほんとほんと、敷石割れたり像壊れたら直すのにも費用かかるじゃんね」
決闘の舞台、この街の広場には、街のシンボル「はしゃぎ回る王子の像」がある。王子の像を見るとなんだこの王子……という気持ちになって煮詰まっていた考えから距離を置けたり、落ち込んでいた気持ちが少しましになったりと何だかんだ役立つので、街の人たちからは愛されていた。
その王子の像が壊されては困るというので決闘前日に移動させる試みがなされたが、王子の像がはしゃぎすぎてバランスが取れず移動させることができなかったため、一応ということで布でぐるぐる巻きにしている状態だ。
「王子大丈夫かなあ……」
「布で巻かれててもはしゃいでるのかな……」
「壊れてもはしゃぐっていうのはちょっと悲しみかき立てるから壊れないといいんだけど……」
「水の剣など邪道! そもそもどうやって物を切るのだ!」
「貴様、うぉーたーかったーを知らぬか! 無知なり!」
「うぉーたーかったーなどこの世界にはないだろう! メタ発言もほどほどにするのだな!」
「ぐぬぬ……炎の剣とて形が不安定であるし、少し風が吹けば刀身が飛んでいくのではないか!? 信用できぬ剣を振るい続ける貴様のメンタルなど豆腐を杖にして立ち続けるが如し!」
「炎の剣は不思議パワーで風が吹いてもビジュアル的に美しく揺らめくのみで不動! たいまつとは違うのだよたいまつとは!」
「あいつたいまつディスってんぞ」
「たいまつ役に立つのにな。森とか洞窟とかたいまつないと無理じゃん」
「ちょっと力があるからって調子乗ってるよな」
「聴衆の声を聞くがいい、炎の剣は人気もない! やはり水の剣こそが志向!」
「ぐ……では逆に訊くが水の剣とてふにゃふにゃで自立することすら難しいのではないか!?」
「フハハ、水の剣も不思議パワーでしっかりと刀身を保っているのだ! うぉーたーパワーで堅い岩すら切断する、石工も大喜び!」
「剣なんかで石斬って大丈夫なのか?」
「切り口雑そう」
「石工も困るだろ」
「聴衆の声を聞くがいい、水の剣の人気もないぞ! やはり炎の剣こそが素晴らしい!」
「どっちも嫌だな……」
「この茶番いつ終わるの?」
「戦いやめて弁論大会にしてくれたら広場も無事で済むじゃんね」
「ほんとそれ。戦いなんて不毛」
「「ええい黙るのだ愚民ども!」」
『僕の臣民たちを愚民だなんて言うのはいただけないなあ』
「何?」
「臣民だと?」
あたりを見回す剣士二人。
広場中央にある布でぐるぐる巻きにされた物体ががたがたと揺れ、揺れがだんだん大きくなり、眩しい光とともに布がはじけ飛ぶ。
『王子降臨! とうっ!』
「はしゃぎ回る王子像」が剣士二人の間に降り立った。
「な……化け物か!? こしゃくなこの剣で切り捨ててやるわ!」
「この街にモンスターがいたとはな……首級を上げギルドに売り飛ばしてくれる!」
『遅いね』
「何っ」
「我らの剣が!」
炎の剣と水の剣を持った王子像が剣士たちから離れたところに立つ。
『街で暴れてはいけない。常識だろ?』
「我らは剣士! 剣士同士の真剣勝負は場所を選ばぬ!」
「その通り、真剣勝負の尊さはいかなる物事よりも優先される!」
『いかんいかんそれは目が曇ってるよ。反省して出直したまえ』
王子像は二本の剣を布でまとめ、聴衆に向かって放り投げた。
「キャッチ! これはこちらで預からせてもらう!」
剣を受け止めそう言ったのは警備隊長。
「剣士どのら、我々には我々の暮らしがありまする。それを勝手に決闘だ真剣勝負だなどと言って荒らされてはたまったものではありませぬ」
『村長もこう言ってるし、ひとまず引き下がったら?』
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
『っていうかなんでもない街の像の僕に負けてるって剣士としてどうなの? 修行し直した方がいいんじゃない? 僕、炎剣取扱1級と水剣取扱1級持ってるんだけど僕でよければ付き合うよ』
「なんと」
「二言はないな?」
『手の平返し早っ。その代わり、街のことを手伝ってね』
「「任された」」
「なんか丸く収まったな」
「問題起きなくてよかった」
「広場も像も無事だったしな」
「っていうか王子変な資格持ってたのな」
「なんか像になる前は冒険者してたって聞いたけど」
「あいつマジで妙な像だな……」
「でも何だかんだで和むしあいつらも色々手伝ってくれるし」
「悪くはないな」
「うむ」
そして街には警備隊兼村役場職員兼なんでも雑用係が二人増え、早朝に体操する住民たちに混じって王子像と二人が棒きれを振り回す光景が見られるようになったという。
めでたし、めでたし。
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