短編小説

『海とおに』

 イェーイ夏だ~! 私はスキをもらいましたッ!
 嬉しいので海に行く。泳ぐのはそんなに好きじゃないが、打ち寄せる波を見ているとぞぞぞとした気分になれるのでそういう思いで海に行く。
 海は歩いて数十分。一人で歩くと頭がぐるぐるしてくるが、音楽などを聴いていればあっという間だ。
 田舎なので人も自転車も全く通らず危険もない。いや、人通りがないのがかえって危険なのではないかという思われる方もいらっしゃるかと思うが、そんなことを気にしていては一生海に行けないので、私は海に行く。行くのだ。

 イェーイ海だ~! 水着は持って来ていないし泳ぐ理由もない! 私は貝を拾って遊ぶ!
 点々と落ちている貝を、一塊になって落ちている貝を、拾っては捨て拾っては捨て。わたしはつよい。貝拾いの王者。そうしている間にカニの穴を見つけて覗き込む。当然、カニは奥深くに潜っていて気配すら感じさせない。
「みごとだなあ」
 敬意を表して棒でも突っ込もうかとも思ったが、残酷なのでやめる。この拍手お礼を残酷描写ありにするつもりはない。

 海、疲れてきたので砂浜の丘に座る。何だかよくわからん草がいっぱい生えている。何だっけ、ヒルガオ? 植物には興味がないのでわからない。でも興味を持ってもいいかもしれないな。色々な植物が見分けられるようになったらきっと楽しいからね! でも調べるのは気が向いた未来だ。しょうらいのはなし~。未来のことを考えるのは楽しい。未来であれば何でもできるからね!
 来年のことを考えると鬼が笑うとか言うけど、鬼とか見たことないし、そんなのが笑えるはずないじゃん。存在しないものがアクションを起こるはずないもんね、ハハハ。
 ナメた口をきいているが実は私は鬼が怖い。夜道を一人で歩いてたりすると電柱の陰から鬼が出てくるんじゃないかとびくびくしてしまう。つまりさっきのハハハは鬼を恐れる気持ちをユーモアで吹っ飛ばすためだったんだよ! 何を思ったか夕方に家を出てしまったせいで帰り道は絶対暗いし鬼怖いし、超困る。

 帰り道。やっぱり鬼が怖い。電灯の唸る音にさえビビっていたら、
「やあ」
「ギャッ」
「ギャッとは何だギャッとは」
「何……? あなたえらく背が高いですね……それに」
「知っているだろう。俺は鬼だ」
「鬼!」
「そう、鬼」
「鬼は怖いですよ」
「鬼は怖くない。俺はいい鬼だ」
「いい鬼なんですか」
「いい鬼だ。その証拠にお前に暗闇怖くないのまじないをかけてやる」
「おお」
「暗闇怖くないパワー!」
「おお、怖くなくなった」
「ああ。達者で暮らせよ」
 鬼は手を振って電信柱の陰に戻っていった。私は鬼のまじないのおかげで暗闇を怖がることなく家に帰った。
 そして夕食を食べて片づけをして、お風呂に入って歯を磨いて明日の講義の準備をして寝た。

 『海とおに』 ~おわり~
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