短編小説
「なんで今日もパンなわけ?」
「いや……サンドイッチ買おうと思ったんだよほんとはさ……」
「なんで買わなかったの」
「高かったから……」
「あーそれはまあしゃあない……のか……?」
「いやマジ金がなあ。魔王ガチャ回しちゃってしばらくは」
「バカ!!!!!」
「うおっ急に怒鳴るなよ」
「なんでそこで浪費するのそこで!」
「だって魔王だぞ? 欲しいでしょ普通。魔王がプレイヤーキャラになるってそうないぞ? 国民的RPGでさえリメイクでやっとといったところだ」
「もーこれだからフリゲをやらない民は困るね。フリゲは魔王主人公が結構多いんだよ?」
「マジかそれはやらざるを得ない、おすすめ教えて」
「食いつき良っなんでそんなに魔王が好きなの」
「それはまあその……」
「だいたい魔王なら僕がいるでしょ、現実に一人いれば充分じゃない? 魔王なんて」
「いや現実の人間は思い通りに動かせないからな」
「僕を思い通りに動かしたいの?」
「そんなわけないだろ、失礼じゃん」
「じゃあどういう願望から来るの、その魔王フェチは」
「それはその……」
「歯切れ悪っユーゲロっちゃいなよ~」
「いや……」
「魔王って概念が好きなの? 大金をつぎ込むほど?」
「その……」
「何なの?」
「……が……」
「は?」
「お前が好きなので!」
「はあ?」
アホでは? と顔に書いてある幼馴染みを見て俺はああしまったと思った。
「お前、僕のこと好きだったの?」
「いやまあそれは言葉のあやというもので」
「僕が好きだから世の魔王という魔王に惹かれるって? そういうこと?」
「バッカおめーそれは……」
その通りだよ畜生。
「ほーふ~ん。じゃあ」
ばさりと奴の背中に翼が現れる。いつも擬態で黒くしている瞳は紅に輝き。
「お前の知らない世界を見せてやろう。我と共に来い、勇者よ」
「……ゴクリ」
授業をサボって連れていかれた先は穴場の隠れ家喫茶店だった。
「お前こういうの好きだったのか」
「魔王がコーヒー好きでもいいだろ」
「いやまあいつもコーヒー牛乳飲んでたし好きなのかなーとは思ってた」
「うっ」
「っていうか幼馴染みなのに知らない方がなくない?」
「うう~」
「でもよく知ってたな、こんな穴場に」
「そう! ここのコーヒーめっちゃおいしいんだよ!」
「確かに、飲んだことのない味だ」
それから俺は幼馴染みにこの店のコーヒーがいかにおいしいかを延々と語られた。
帰る頃には日が暮れていて、また明日ねと言って俺の方を見た幼馴染みの目は紅に輝いていて、魅了かけた? って訊いたら
「勇者には効かないんだよね~それがこ……好都合なんだけど。試しがいがあるし」
「へえ……俺でお前が楽しんでくれるならよかった。魔界から隔てて飼い殺しにして、恨まれこそすれど楽しんでもらえるなんて」
「いやあまあ魔界で過ごした時間よりもうこっちのが長いし、別にって感じ」
「ああ……すま」
「それは言わない約束~その代わり明日も僕と友達でいて」
「いや当たり前だろ……」
「そうかな……」
「そうだ」
「僕は魔王なのに?」
「お前が好きなので」
「バカじゃないの?」
「勇者なんて少しバカなくらいがちょうどいいんだよ。じゃ、また明日」
「うん……」
幼馴染みは納得がいかなそうな雰囲気を醸し出してはいたが、ややあって、ぱ、と何か思い付いたような顔をしてまたね! と俺の鞄を叩くと帰っていった。
家に帰ってゲームを開いたら引いた魔王の姿がなんだか変わっていて、あれこれ幼馴染みの……って気付いた瞬間喜んでいいのか怒っていいのかよくわからない気持ちになった。
いや嬉しかったけど、背徳的すぎるじゃん? さすがに。
明日それとなくカマかけてみよう。かけるまでもないと思うけど。
そう思いながら俺はゲームを閉じた。
(おわり)
「いや……サンドイッチ買おうと思ったんだよほんとはさ……」
「なんで買わなかったの」
「高かったから……」
「あーそれはまあしゃあない……のか……?」
「いやマジ金がなあ。魔王ガチャ回しちゃってしばらくは」
「バカ!!!!!」
「うおっ急に怒鳴るなよ」
「なんでそこで浪費するのそこで!」
「だって魔王だぞ? 欲しいでしょ普通。魔王がプレイヤーキャラになるってそうないぞ? 国民的RPGでさえリメイクでやっとといったところだ」
「もーこれだからフリゲをやらない民は困るね。フリゲは魔王主人公が結構多いんだよ?」
「マジかそれはやらざるを得ない、おすすめ教えて」
「食いつき良っなんでそんなに魔王が好きなの」
「それはまあその……」
「だいたい魔王なら僕がいるでしょ、現実に一人いれば充分じゃない? 魔王なんて」
「いや現実の人間は思い通りに動かせないからな」
「僕を思い通りに動かしたいの?」
「そんなわけないだろ、失礼じゃん」
「じゃあどういう願望から来るの、その魔王フェチは」
「それはその……」
「歯切れ悪っユーゲロっちゃいなよ~」
「いや……」
「魔王って概念が好きなの? 大金をつぎ込むほど?」
「その……」
「何なの?」
「……が……」
「は?」
「お前が好きなので!」
「はあ?」
アホでは? と顔に書いてある幼馴染みを見て俺はああしまったと思った。
「お前、僕のこと好きだったの?」
「いやまあそれは言葉のあやというもので」
「僕が好きだから世の魔王という魔王に惹かれるって? そういうこと?」
「バッカおめーそれは……」
その通りだよ畜生。
「ほーふ~ん。じゃあ」
ばさりと奴の背中に翼が現れる。いつも擬態で黒くしている瞳は紅に輝き。
「お前の知らない世界を見せてやろう。我と共に来い、勇者よ」
「……ゴクリ」
授業をサボって連れていかれた先は穴場の隠れ家喫茶店だった。
「お前こういうの好きだったのか」
「魔王がコーヒー好きでもいいだろ」
「いやまあいつもコーヒー牛乳飲んでたし好きなのかなーとは思ってた」
「うっ」
「っていうか幼馴染みなのに知らない方がなくない?」
「うう~」
「でもよく知ってたな、こんな穴場に」
「そう! ここのコーヒーめっちゃおいしいんだよ!」
「確かに、飲んだことのない味だ」
それから俺は幼馴染みにこの店のコーヒーがいかにおいしいかを延々と語られた。
帰る頃には日が暮れていて、また明日ねと言って俺の方を見た幼馴染みの目は紅に輝いていて、魅了かけた? って訊いたら
「勇者には効かないんだよね~それがこ……好都合なんだけど。試しがいがあるし」
「へえ……俺でお前が楽しんでくれるならよかった。魔界から隔てて飼い殺しにして、恨まれこそすれど楽しんでもらえるなんて」
「いやあまあ魔界で過ごした時間よりもうこっちのが長いし、別にって感じ」
「ああ……すま」
「それは言わない約束~その代わり明日も僕と友達でいて」
「いや当たり前だろ……」
「そうかな……」
「そうだ」
「僕は魔王なのに?」
「お前が好きなので」
「バカじゃないの?」
「勇者なんて少しバカなくらいがちょうどいいんだよ。じゃ、また明日」
「うん……」
幼馴染みは納得がいかなそうな雰囲気を醸し出してはいたが、ややあって、ぱ、と何か思い付いたような顔をしてまたね! と俺の鞄を叩くと帰っていった。
家に帰ってゲームを開いたら引いた魔王の姿がなんだか変わっていて、あれこれ幼馴染みの……って気付いた瞬間喜んでいいのか怒っていいのかよくわからない気持ちになった。
いや嬉しかったけど、背徳的すぎるじゃん? さすがに。
明日それとなくカマかけてみよう。かけるまでもないと思うけど。
そう思いながら俺はゲームを閉じた。
(おわり)
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