短編小説

 7月7日。雨が降った。空は曇りで雲は重たく、いつものように自室の窓から外を眺めている。
 外に出よう、毎日そう思うのに次の日には忘れてしまう。君がいなくなってからはずっとそうだ。
 友達だった。親友だった。毎日部屋に連れ出しに来ては、腕を引っ張られて外に出掛けて、色々な場所を遊んで回った。
 疎遠になったのはいつからだっけ。
 そう、君がいなくなってから。
 ある日突然ぷつんと消えて、何の便りも来なくなった。
 しばらく待っても君は来なくて、次の日も、その次の日も、数週間経っても君は来なくて、僕は自分から外に出て、君と行った場所を探して回った。
 全部回って、嫌になるくらい回って、君と僕の思い出が僕一人で探し回った記憶で上書きされてしまうまで探して回った。
 気付いたときには遅かった。
 君との記憶が薄れ消えてしまったこと。
 君の顔、君の声、君との思い出、楽しかった記憶、全ておぼろげになってただの言葉になって埋もれている。
 生きるよすがのようになっていた大切な記憶がただの過去となってしまったこと。
 想い合う二人が晴れた日に会える、そんな七夕の日も僕は一人で部屋の隅にうずくまったまま。
 君はどこに行ったのだろう。生きてさえいればまた会えるのだろうか。
 君はきっと僕のことを忘れてしまったか、憎んでいるんじゃないだろうか。そうじゃなければこんなこと。人生の貴重な時間を僕と過ごして無駄にしたのを後悔してるに違いない。
 会えないけれど後悔をわかっている。話せないけれど憎しみをわかっている。そんなことばかり考えて日々ぐるぐると過ごしている。
 夜になって雨が止んで晴れ上がった空を見ていても、君と会えない現実が変わるわけではなく、明日もきっと外に出られないのかなという後ろ向きな予測を心の奥に埋めようと丸まっていた。


(おわり)
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