即興小説まとめ(全37作品)

「仕方のないことなのよ」
 机の前に座ったDが呟く。ゼリーを食べていたBはその方向にちらっと目を向けたが、すぐに逸らした。
「こんなにつらいなら仕方のないことなの」
 言いながら、Dは目の前に置いた紙に無数の点を打っている。Bはゼリーを食べている。
「宿命なのよ」
 Dは紙に渦巻きを書く。
 Bはゼリーに入った桃を取り出そうとして、スプーンをゼリーに差し込んだ。
「なんのことはない、わたしの宿命だったのよ。こんなにつらいのは」
 そう言って、DはBの方を振り返った。
 Bは桃を丁寧に切り取って口に運ぶ。そして、もぐもぐと噛む。
「あなたもそう思わない?」
「これおいしいな」
「やっぱりそうよね。人はつらさを許容した上で生きていくべきなのよ。つらさを拒むのではなく、受け入れなければならない。つらさもわたし達の一部なのだから」
 一気に言うD。Bは今度は桃をよけてゼリーだけを口に運んだ。
「うん、うまい」
 DはしばらくBを見つめたあと、机に向き直った。
 Bはうまいうまいと言いながらゼリーを食べている。
雨が降っていた。
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