即興小説まとめ(全37作品)

「いつもありがとう」
「いえいえ、このくらい当たり前です」
 Eは笑顔でほうきを持ち直した。
 快晴の空には太陽が輝き、頂点に向かって少しずつ昇り始めている。
 Eはほうきでガラスの破片を掃き集めていた。一掃きするたびに、ガラスがコンクリート床を引っ掻く音がする。
「もうちょっと丁寧にできるスキルがほしいものです」
しゃがんでちりとりを構え、集めたガラスをそれに掃き入れる。そのガラスをちりとりから丈夫そうな袋へ移す。一通り作業が終わると、Eはよしと言って立ち上がった。
「行きましょう」
 掃除用具を右手、袋を左手に持って廊下を歩く。
 日の射さない廊下を抜け、階段を下り、ロッカーに掃除用具を突っ込む。
 薄暗い部屋の前を通りすぎ、裏口から外に出て50メートルも歩くとごみ捨て場に着く。
「よいしょ」
 ごみ捨て場の戸を引き開け、袋を他の袋の上に乗せ、戸を閉める。がらがらと大きな音がした。
「ふう、やれやれ」
 汗を腕で拭い、建物に戻る道を歩く。Eは空を見上げたり、木の葉の数を確認してみたりしながらゆっくり歩いた。
 アスファルトの道がコンクリート敷きの道に変わる。裏口の手前でEは立ち止まっている。裏口の上、少し右の部屋、さっきEの出てきた部屋である、をEはぼうっと見上げていた。
 日差しが強くなる。Eは上の部屋から太陽の方向に顔を向け、眩しそうに目を細めた。
 開けっぱなしの窓から話し声が聞こえる。ぼそぼそと喋る声、それに導かれるかのように笑い声が響いていた。
「無理矢理か」
 Eは太陽にのろのろと手をかざすと、回れ右をした。
「帰るか」
 そう言うと、歩き出す。
 歩きながら下を向いてアスファルトをざっと眺めた。
「まあ、いいや」
 Eは空を見上げ、そうしてまた下を向いた。
 アスファルトが熱を蓄え始めていた。
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