短編小説

 都会に行っても元気な君でいてください。
 君はいつも一生懸命に生きてる頑張り屋さんで、小説にかける情熱は誰にも負けなかったね。
 賞を取って、都会で一人暮らしして頑張るって言って、お母さんやお父さんの反対も押し切って、これを読んでるのは夜行バスの中かな?
 文芸部で送り出し会をするからって聞いて、そのときに渡せたらと思ってこの手紙を書きました。私はうまく渡せたんだろうか。君がこれを読んでるなら渡せたってことだけど、ひょっとするとゴミ箱に入っているかもしれない。書いてるときはわからないね。
 小説は書き上がってみるまでどうなるかわからないと言った私に、君はダメ出しをしたね。頭から終わりまでプロットをきっちり立てて書く、計画的じゃないと商業で売れるなんてことはできないんだと。君は無計画な私と違ってきっちり書いた小説で賞を取った。毎日の努力の結果だよね。本当にすごいと思うよ。
 君の努力、とても真似することはできないや。きっと私は君と違って趣味のまま、なんとなくで大学に上がって就職して、仕事で忙しくなって、そして小説のことなんて忘れて生きていくんだと思う。
 私を軽蔑しますか? 小説への向き合い方が不真面目な私を、努力のできない私を。軽蔑されても仕方ないね、私は頑張れない人間だから。こうして君の頑張りを、自分の頑張りであるかのように投影して見て応援することしかできない。
 一生懸命な君の努力は、いつまでも夢を見ている馬鹿だと言われることもあったけど、君の頑張りを見ていると、叶うんじゃないかと思えた。私と違って努力の鬼だから、その努力で夢を掴み取れるんじゃないかと思えた。弱音も吐かず、いつも小説が大好きな君の夢が破れるなんて私には思えないのです。
 君は努力している。それは私なんかに言われるまでもなく君が一番わかってるんだろうね。私が君に頑張ってるねって言うと、君はいつも、当然だろって答えて少し不機嫌になった。不真面目な私でごめん。
 君に伝えたいことがあってこの手紙を書いているはずなのに、なんでだろう、思い出話ばかりしてしまう。きっとこういうところも、私が小説が下手な理由なんだろうね。君は私と違うから、もし立場が逆だったら、とっても綺麗な手紙をくれるんだろうね。違うか。私なんかに手紙を書く暇があれば君は努力するもんね。
 そろそろちゃんと本題に入らないとね。でも、私自身、何を伝えたくて書いたのかはまだよくわかっていないんだ。応援かな、別れの言葉かな。焦点がぶれているからこんな風にぐだぐだと書いてしまうんだね。
 私は君を忘れないけど、君は私を忘れてしまうだろうね。君にとっての私という存在は、同じ部活で一方的に話しかけてくる奴程度の認識しかなかっただろうし。この手紙だって、読まずに捨てられちゃってるかもしれないし。わからない。でも、読まれるといいなと思ってこれを書いてるのは本当だよ。
 君は都会に出て、書いて、書いて、書きまくるんだろうね。その姿勢はきっと周囲の人にも伝わって、たくさんの人から応援してもらえるんだろうね。君は馴れ合いが嫌いだからその人たちを邪険に扱ってしまうかもしれないけれど、努力する人間というものは好かれるものだから大丈夫だと思う。
 どんな風にしたら君の夢が叶うのか、私は知らない。でも君ならきっとできると思う。私の知らない道を、地道に確実に進んでいくんだろう。頑張ってほしいと思うよ。遠くにいても君のことを応援しているから。
 君の出した本が売れて本屋に並んだら、きっと買うね。周囲の人にも自慢する。君と一緒の部活にいたんだよって色々な人に言って回るよ。君は迷惑かもしれないけど、3年間一緒に過ごした身としてそのくらいの我が儘は許してくれると嬉しいな……って言っても、その頃には君は私のことを忘れちゃってるだろうけど。
 君のこと、好きだったわけじゃない。恋していたわけでもない。嫌いではなかった。でも好きでもなかった。それならどうしてこんな手紙を書いているのかわからないけれど、もう会うこともなくなるし、きっとずっとわからないままなんだと思うよ。連絡を取り合うこともなくなるけれど、いつまでも覚えていようとは思う。だって、私は君を応援しているからさ。
 努力家で才能に満ち溢れた君が、夢を叶えることを祈っています。
 かしこ


(おわり)
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